東京地方裁判所 昭和54年(行ウ)103号 判決 1988年7月05日
東京都足立区梅田八丁目一番一一号
原告
山崎博通
右訴訟代理人弁護士
床井茂
同
横田俊雄
東京都足立区栗原三丁目一〇番一六号
被告
西新井税務署長
堀越精
右指定代理人
武井豊
同
安達繁
同
鳴海悠祐
同
佐藤康一
同
中村勝樹
同
鈴木政之
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和五〇年三月一一日付けでした原告の昭和四六年分所得税の更正処分(ただし、異議決定及び審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち総所得金額三八〇万八八一四円、納付すべき税額五一万八五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定(ただし、当初は同日付けの過少申告加算税及び重加算税のの賦課決定であつたが、異議決定を経て過少申告加算税の賦課決定に縮減変更となり、さらに、審査裁決によりその一部が取り消された。その後のものを指す。)のうち過少申告加算税の額二万〇四〇〇円を超える部分を取り消す。
2 被告が昭和五〇年三月一一日付けでした原告の昭和四七年分所得税の更正(ただし、異議決定により一部取り消された後のもの)のうち総所得金額一三四七万〇八〇一円、納付すべき税額四二六万六五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定(ただし、当初は同日付けの過少申告加算税及び重加算税の賦課決定であつたが、異議決定を経て過少申告加算税の賦課決定に縮減変更となつた。その後のものを指す。)のうち過少申告加算税の額二一万三三〇〇円を超える部分を取り消す。
3 被告が昭和五〇年三月一一日付けでした原告の昭和四八年分所得税の更正(ただし、異議決定により一部取り消された後のもの)のうち総所得金額五五五万八七六一円、納付すべき税額一一三万八五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定(ただし、当初は同日付けの過少申告加算税及び重加算税の賦課決定であつたが、異議決定を経て過少申告加算税の賦課決定に減額変更となつた。その後のものを指す。)のうち過少申告加算税の額四万九〇〇〇円を超える部分を取り消す。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 申告等の経緯
(一) 原告の昭和四六年分の所得税に関する確定申告及び修正申告の経緯及び内容は、別表一の<1>番号及び二の項のとおりである。
(二) 原告の昭和四七年分の所得税に関する確定申告及び修正申告の経緯及び内容は、別表二の<1>の番号一及び二の項のとおりである。
(三) 原告の昭和四八年分の所得税に関する確定申告及び修正申告の経緯及び内容は、別表三の<1>の番号一及び二の項のとおりである(以下、昭和四六年ないし昭和四八年の三か年を「本件係争年」と、昭和四六年分ないし昭和四八年分の三か年分を「本件係争年分」と、右の各確定申告を併せて「本件各申告」と、右各修正申告を併せて「本件各修正申告」という。)。
2 処分の存在
(一) 被告は、原告の昭和四六年分の所得税について、昭和五〇年三月一一日、別表一の<1>の番号三及び四の項のとおり、更止並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定をした。
(二) 被告は、原告の昭和四七年分の所得税について、昭和五〇年三月一一日、別表二の<1>の番号三及び四の項のとおり、更正並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定をした。
(三) 被告は、原告の昭和四八年分の所得税について、昭和五〇年三月一一日、別表二の<1>の番号三及び四の項のとおり、更正並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定をした。
3 異議申立ての経緯
(一) 原告は、昭和五〇年三月一二日、被告に対し、右2の(一)の処分について別表一の<1>の番号五の項のとおり異議申立てをし、これに対して被告は、同表の番号六及び七の項のとおり異議決定及び過少申告加算税の賦課変更決定をした。
(二) 原告は、昭和五〇年三月一二日、被告に対し、右2の(二)の処分について別表二の<1>の番号五の項のとおり異議申立てをし、これに対して被告は、同表の番号六及び七の項のとおり異議決定及び過少申告加算税の賦課変更決定をした。
(三) 原告は、昭和五〇年三月一二日、被告に対し、右2の(三)の処分について別表三の<1>の番号五の項のとおり異議申立てをし、これに対して被告は、同表の番号六及び七の項のとおり異議決定及び過少申告加算税の賦課変更決定をした。
4 審査請求の経緯
(一) 原告は、昭和五〇年九月一〇日、国税不服審判所長に対し、右3の(一)の異議決定後更に別表一の<1>の番号八の項のとおり審査請求をし、これに対して同所長は、同表の番号一一の項のとおり審査裁決をし、同裁決書は昭和五四年五月二一日原告に送達された。
(二) 原告は、昭和五〇年九月一〇日、国税不服審判所長に対し、右3の(二)の異議決定後更に別表二の<1>の番号八の項のとおり審査請求をし、これに対して同所長は、同表の番号一一の項のとおり審査裁決をし、同裁決書は昭和五四年五月二一日原告に送達された。
(三) 原告は、昭和五〇年九月一〇日、国税不服審判所長に対し、右3の(三)の異議決定後更に別表三の<1>の番号八の項のとおり審査請求をし、これに対して同所長は、同表の番号一一の項のとおり審査裁決をし、同裁決書は昭和五四年五月二一日原告に送達された(以下、本件係争年分の右各更正及び右各賦課決定をそれぞれ「本件各更正」及び「本件各賦課決定」といい、以上の各処分を併せて「本件各処分」という。ただし、昭和四六年分については、異議決定、審査裁決を経た後のもの、昭和四七年分及び昭和四八年分については、異議決定を経た後のものを指す。以下同じ。)
5 本件各処分の違法事由
(一) 信義誠実の原則、禁反言の法理に反する違法
被告は、昭和四九年一一月二一日ころから原告の本件係争年分の所得税について税務調査を始めた。被告所部の林一夫事務官(以下「林事務官」という。)及び志村正上席国税調査官(以下「志村調査官」といい、林事務官と併せて「担当官ら」という。)は、同年一二月七日、原告を税務署まで呼び出し、「修正申告をすれば税額を六〇〇万円程度にする。今後本件係争年分の税務調査はしない。更正もしない。しかし、修正申告をしなければ五年前にさかのぼつて徹底的にやる。税額も莫大なものにする。」旨述べて、本件係争年分の所得税につき修正申告をするよう強要した。原告は、担当官らが出した、本件係争年分の所得税につき修正申告をすれば更正をしない旨の提案を受け入れて修正申告に応ずることとし、右提案につき、担当官らから明確に約束を得た上で、担当官らにおいて作成し、原告においてその内容根拠を関知しない本件係争年分の所得税の各修正申告書に署名、押印して同修正申告書を提出し、本件各修正申告をした。しかるところ、本件各更正は、右の約束に反してされたものであるから、信義誠実の原則、禁反言の法理に反する違法なものであり、これに伴う本件各賦課決定も違法である。
(二) 所得金額の過大認定の違法
原告の本件係争年分の各所得金額は、昭和四六年分については三八〇万八八一四円、昭和四七年分については一三四七万〇八〇一円、昭和四八年分については五五五万八七六一円であるから、本件各更正に係る所得金額のうち右各金額を超える部分は、原告の所得金額を過大に認定した違法があり、これに伴う本件各賦課決定も違法である。
6 よつて、原告は、請求の趣旨に記載の範囲で、本件各処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし4の事実は認める。
2 同5の(一)は、担当官らが原告の本件係争年分の所得税の調査を担当したこと、担当官らが原告に調査のため来署を求めたこと、原告が昭和四九年一二月七日に本件係争年分の所得税の各修正申告書を提案して本件各修正申告をしたことは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。(二)の主張は争う。
3 請求原因5の(一)(信義誠実の原則、禁反言の法理に反する違法)に対する被告の反論
本件各修正申告は、以下の経緯で行われたものであり、原告が主張するような本件各更正を行わないとの約束はない。
被告は、昭和四九年一一月一二日から原告の本件係争年分の所得税調査を開始し、担当官らは同月二〇日から右調査を担当した。
担当官らは、同年一二月六日、来署した原告に対し、それまでの調査において疑問点とされた住発株式会社(以下「住発」という。)との間の取引及び原告の貸付金原簿に記載されていない貸付先との取引が明らかになる関係書類を提出するよう依頼するとともに、この時点で被告が把握できた原告の資産、負債の内容及びそれに基づき算出される一応の概算所得金額を説明し、原告から右関係書類の提出があつた場合において、それを被告において検討して納得が得られたときには、その時点で更に調査を続行するか否かを決めることとする旨延べ、また、そのときには、右関係書類等に基づいて算出される所得金額によつて修正申告書を提出するよう指導した。
これに対し、原告は、原告の資産、負債の内容はほぼ被告の説明したとおりであるが、なおよくその内容を検討したいこと、被告把握の負債には金子満夫からの借入金三五〇万円が漏れていることを申し立てたほか、本件係争年分に係る所得が過少である場合の修正申告の方法及びそれに伴う納税額等を担当官らに質問した。担当官らは、原告に対し、資産及び負債の内容を十分検討するよう依頼するとともに、修正申告の方法等について説明し、この時点で判明していた所得金額でいつたん修正申告書を提出し、その後右関係書類が揃い、これによつて所得金額が更に増加した場合には、再度修正申告書を提出することにしても差し支えない旨の話をした。
原告は、同月七日、担当官らに対し、被告が説明した原告の資産、負債の内容について検討したところ、金子からの借入金が計上漏れとなつている以外は、被告の説明したとおりであること、担当官らが提出を求めた住発との取引に関する書類は被告に提出する用意があること、ついては、被告の調査により明らかとなつた資産、負債に基づいて算出された所得金額で修正申告書を提出したい旨申し出た。これを受けて担当官らは、原告に対し、金子からの借入金の分についても前日提出を求めたと同様の関係書類の提出を求め、これらの関係書類の提出があつた場合においても、その記載内容が不十分な場合には、原告に対する調査は継続しなければならない旨伝えた。原告は、それを聞いた上で、前日に貰つていた林事務官が調査により把握していた原告の資産、負債に基づいて計算した本件係争年分の所得金額を記入した修正申告書に署名、押印してこれを提出し、本件各修正申告をした。
三 被告の主張
1 推計の必要性
(一) 原告は金融を業とするいわゆる白色申告者である。
(二) 被告は、原告から提出された本件係争年分の所得税の確定申告書を検討したところ、原告が、本件係争年分中に多額の株式及びゴルフ会員権を取得し、昭和四七年中に原告の長男である山崎時弘に係る医療費として原告の同年分の申告所得金額を上回る額を支払つている事実などが認められ、原告の本件係争年分の申告所得金額は真実のそれに比べて極めて低額なものであると考えられたことから、被告所部の職員をして原告の本件係争年分に係る所得税の調査に当たらせ、昭和四九年一一月一二日、同月二〇日及び同年一二月一日に原告宅において、同月六日、同月七日及び同月九日に西新井税務署において、原告に対して調査を行つた。
(三) 原告は、同年一一月二〇日及び同年一二月一日の調査において、林事務官に対し、本件係争年分に係る貸付金原簿及び領収書を提示した。同事務官は、右貸付金原簿の記帳を裏付けるところの貸付証書、受取手形等の原始記録の提示を求めたが、原告は、右の求めにかかる原始記録を提示しなかつた。そこで、同事務官が銀行取引の有無等について質問したところ、原告は、三菱銀行千住支店、足立信用金庫竹の塚支店及び東京相互銀行梅島支店の各金融機関と取引がある旨答えたのみで、金融機関との取引についてはそれ以上答えず、また、右三行に係る原告の預金通帳等の提示もしなかつた。次いで、同事務官が株式売買について質問したところ、原告は、以前に東京都中央区日本橋に所在する大福証券本社を通じて株式の売買をしていたが、現在はしておらず、株式売買に関する当時の資料は保存もしなかつた。さらに、同事務官がゴルフ会員権の取得及び医療費の支払い等に充てた資金の調達方法について質問したところ、原告は、右資金は、妻のアパート収入及び相続した遺産を充てたと答えるのみで、右資金の調達方法を具体的に明らかにする資料の提出及び説明をしなかつた。
(四) 被告のその後の調査により、原告には、住発及び貸付金原簿に記載のない貸付先に対する貸付けの存在及びそれに伴う利息収入の存在が窺われ、原告の本件係争年分の所得税にかなりの申告漏れが見込まれ、また、原告の資産取得に関し、その調達方法が詳らかにはならなかつた。以上のことから、担当官らは、原告に対し、右の各内容を明らかにするよう求めた。
これに対し、原告は、その際担当官らから説明を受けた調査により被告が把握した原告の資産、負債を検討した上、これに基づいて算出される所得金額で修正申告書を提出したい旨申し出てその結果、本件修正申告をし、昭和四九年一二月九日に、住発の作成に係る昭和四六年に二〇〇万円、昭和四七年に一八〇万円、昭和四八年に二〇万円、合計四〇〇万円(約)の利息を支払つた旨の確認書及び金子の作成に係る同年一二月末日現在、原告に対して三五〇万円を貸し付けている旨の確認書各一通を提出した。
(五) 被告は、原告から提出された右確認書を検討したところ、右確認書は、被告が先に提出を求めた内容を満たすものではなく、また、住発以外の貸付先との貸付内容を明らかにする関係書類の提出は全くなかつたので、原告の所得内容を検討することができなかつた。一方、原告は、右確認書以外に被告が提出を求めていた関係書類を提出しょうとはせず、昭和四九年一二月一八日以降、調査に対して全く協力しなくなつた。
(六) 被告は、右(五)のとおり、原告が調査に一切協力しなくなり、原告から本件係争年分の所得税を実額で計算するための資料を得られなくなつたため、原告が貸付元本の返済及びその利息の受取りとして各貸付先から受領の上、原告の預金口座に入金したと考えられる小切手、手形等について調査し、右の預金口座のある金融機関の取引記録から判明したその振出人、裏書人等について反面調査を実施した。しかし、これら振出人、裏書人の中には、原告から貸付けを受けたことは認めるものの、原告との取引内容を明らかにすることを拒み、あるいは取引関係の諸帳簿を備え付けていないか、備え付けていてもそれが不備であつたり、又は振出人、裏書人等の住所が不明であつたなどして、原告に係る金融機関の取引記載等をもつてしても、原告の事業所得の全容を明らかにすることはできなかつた。
(七) 以上のとおり、本件係争年分の原告の所得税の調査において、原告から取引の全容を把握するに足りるだけの帳簿書類等の提示がなく、原告の協力も得られなかつたため、被告は、原告の金融機関に係る取引内容につきその一部しか把握できず、右の事業に係る収入金額である受取利息の額についても、祖の一部しか実額で認定できなかつた。したがつて、右の実額で認定できた受取利息の額以外の受取利息の額については、これを推計により算定する必要性がある。
2 推計の合理性
(一) 原告は、本件係争年において、原告に帰属する協和銀行足立支店、成和信用金庫本店、東京相互銀行梅島支店、富士銀行足立支店、平和相互銀行上野支店、同銀行浅草橋支店、三菱銀行千住支店及び住友銀行上野支店(二口)において原告名義の普通預金口座並びに協和銀行足立支店において山崎知子名義の普通預金口座の計一〇口(別表一の<5>の預金口座。別紙二参照)を融資、右各金融機関と普通預金取引を行つていた(以下、右各金融機関に併せて「取引銀行など」といい、右各普通預金口座を「本件預金口座」という。)。
(二) 原告は金融業以外に損害保険の代理店を営んでいたが、右損害保険の代理店に係る出入金については、本件預金口座とは別に、安田火災代理店名義の預金口座を有し、これを使用しており、金融業に係る出入金と区別していた。したがつて、本件預金口座への入金は、銀行預金利息、株式配当金、誤つて入金された火災保険料、誤記入により入金が取り消された入金及び不渡りとなつた手形、小切手の入金など金融業に関わらない入金(以下「貸付外入金」という。)以外は、貸付先からの貸付元本返済及び受取利息の入金(以下「貸付けに係る入金」という。)というべきである。
(三) ところで、被告において、原告提出の貸付金原簿、被告の調査により得た貸付先の帳簿、取引銀行等の預金口座(本件預金口座)等の内容を検討したところ、次のことが判明した。すなわち、<1>まず、住発に対する貸付については、その帳簿により、受取利息の額が把握できたのであるが、それに対応する貸付元本返済の額が完全には把握できなかつた。<2>次に、住発以外の貸付先に対する貸付けについては、貸付金原簿があるものは受取利息及びこれに対応する貸付元本返済の額が把握できた。<3>しかし、この他の貸付けについては、貸付先の名称が分かるものも含めて、右(二)のとおり本件預金口座に貸付けに係る入金があることが把握できたものの、それが受取利息か貸付元本返済かあるいは両者を会わせたものであるかまでは明らかにできなかつた。
そうすると、右<1>、<2>の貸付けについては、いずれも受取利息の額が実額で認定できるのであるが(以下、実額で認定できる受取利息の額に基づく収入を「実額収入額」という。)、右<3>の貸付けについては、受取利息の額が実額では認定できず、推計によつて決めざるを得ない。
(四) そこで、まず、本件係争年の各年ごとに、本件預金口座への貸付けに係る入金のうち、右(三)の<1>及び<2>の貸付けに関わる入金(以下「日額把握分入金」という。)を除いた右(三)の<3>の貸付けに関わる入金(以下「内訳未把握分入金」という。)を算出した。次に、各年ごとに、右(三)の<2>の貸付けに係る受取利息及びこれに対応する貸付元本返済の額を集計した額と右受取利息の額のみを集計した額とをそれぞれ計算の上、前者に対する後者の割合(以下「受取利息割合」という。)を算出した。そして、内訳未把握分入金に受取利息割合を乗じて、右(三)の<3>の貸付けに係る受取利息の額を推計した(以下、推計した受取利息の額に基づく収入を「推計収入額」という。)。
(五) 以上による実額収入額及び推計収入額の合計額が本件係争年分の各年分における原告の金融業に係る事業所得の収入金額であり、右は本人率を用いた比率法によるものであつて、その推計の方法には合理性がある。
3 昭和四六年分の事業所得金額
(一) 総収入金額 五一三一万三六一九円
(1) 実額収入額 三七〇四万一五八四円
内訳は別表一の<2>のとおりである。
(2) 推計収入額 一四二七万二〇三五円
別表一の<5>の「入金額」の欄に記載の昭和四六年中に本件預金口座へ入金された金額の合計額七億四一九三万八五八一円(その内訳は別表一の<6>のとおりであり、同表の「入金年月日」の欄に記載の日に「入金額」の欄に記載の金額が入金となつている。)から、別表一の<5>の「推計の基となる金額に算入しないもの」の欄の「実額把握分入金」の欄に記載の額(ただし、同表の括弧書きの部分を除くもの。)の合計六億二〇三二万六七一〇円(その内訳は別表一の<6>のの「被告主張の推計の基となる金額に算入しないもの」の欄の「日額把握分入金」欄に記載のとおりであり、右入金は「貸付先」の欄に記載の者からの入金であつて、同欄の括弧内に記載の者は右入金に係る小切手又は手形の支払人である。)並びに別表一の<5>の「推計の基となる金額に算入しないもの」の欄の「貸付外入金」の欄に記載の額の合計五二三九万七三四四円(その内訳は別表一の<6>の「被告主張の推計の基となる金額に算入しないもの」の欄の「貸付外入金」の欄に記載のとおりであり、右入金の内容は「内訳」の欄に記載のとおりである。)を差し引いた金額六九二一万四五二七円に、別表一の<4>に記載する受取利息割合二〇・六二パーセント(少数点第三位以下切捨て。受取利息割合につき同じ。)を乗じたものである。
(二) 必要経費 一九四七万七六三四円
右金額は、原告が確定申告書に記載した必要経費の額(以下「申告必要経費額」という。)である。
(三) 事業専従者控除額 一六万五〇〇〇円
(四) 事業所得金額 四九二〇万〇九八五円
(一)の金額から(二)及び(三)の金額を差し引いた四九二〇万〇九八五円が、原告の昭和四六年分の金融業に係る事業所得金額である。
4 昭和四七年分の事業所得金額
(一) 総収入金額 二七〇四万四三八九円
(1) 実額収入額 一〇七四万五六二五円
内訳は別表二の<2>のとおりである。
(2) 推計収入額 一六二九万八七六四円
別表二の<5>の「入金額」の欄に記載の昭和四七年中に本件預金口座へ入金された金額の合計額二億二二三五万六七五四円(その内訳は別表二の<6>のとおりであり、同表の「入金年月日」の欄に記載の日に「入金額」の欄に記載の金額が入金となつている。)から、別表二の<5>の「推計の基となる金額に算入しないもの」の欄の「実額把握分入金」の欄に記載の額(ただし、同表の括弧書きの部分を除くもの。)の合計一億二二七四万八一一二円(その内訳は別表二の<6>の「被告主張の推計の基となる金額に算入しない」の欄の「日額把握分入金」の欄に記載のとおりであり、右入金は「貸付先」の欄に記載の者からの入金であつて、同欄の括弧内に記載の者は右入金に係る小切手又は手形の支払人である。)及び別表二の<5>の「推計の基となる金額に算入しないもの」の欄の「貸付外入金」の欄に記載の額の合計九〇〇万九六一五円(その内訳は別表二の<6>の「被告主張の推計の基となる金額に算入しないもの」の欄の「貸付外入金」の欄に記載のとおりであり、右入金はの内容は、「内訳」の欄に記載のとおりである。)を差し引いた金額九〇五九万九〇二七円に、別表二の<4>に記載の受取利息割合一七・九九パーセントを乗じたたものである。
(二) 必要経費 一七三万六〇四九円
右金額は、申告必要経費額一六七万一三六七九円に、建物減価償却費六万二三七〇円を加算した金額である。
(三) 事業所得金額 二五三〇万八三四〇円
(一)の金額から(二)のの金額を差し引いた二五三〇万八三四〇円が、原告の昭和四七年分の金融業に係る事業所得金額である。
5 昭和四八年分の事業所得金額
(一) 総収入金額 二四五一万一七九五円
(1) 実額収入額 三三五万三三六九円
内訳は別表三の<2>のとおりである。
(2) 推計収入額 二一一五万八四二六円
別表三の<5>の「入金額」の欄に記載の昭和四八年中に本件預金口座へ入金された金額の合計額一億三五四三万四七七七円(その内訳は別表三の<6>のとおりであり、同表の「入金年月日」の欄に記載の日に「入金額」の欄に記載の金額が入金となつている。)から、別表三の<5>の「推計の基となる金額に算入しないもの」の欄の「実額把握分入金」の欄に記載の額の合計一一九一万七七三一円(その内訳は別表三の<6>の「被告主張の推計の基となる金額に算入しないもの」の欄の「日額把握分入金」の欄に記載のとおりであり、右入金は「貸付先の欄に記載の者らの入金であつて、同欄の括弧内に記載の者は右入金に係る小切手又は手形の支払人である。)及び別表三の<5>の「推計の基となる金額に算入しないもの」の欄の「貸付外入金」の欄に記載の額の合計一〇九七万二二二四円(その内訳は別表三の<6>の「被告主張の推計の基となる金額に算入ないもの」の欄の「貸付外入金」の欄に記載のとおりであり、右入金の内容は「内訳」の欄に記載のとおりである。)を差し引いた金額一億一二五四万四八二二円に、別表三の<4>に記載の受取利息割合一八・八〇パーセントを乗じたものである。
(二) 必要経費 二四五万二一一七円
右金額は、申告必要経費額である。
(三) 事業所得金額 二二〇五万九六七八円
(一)の金額から(二)の金額を差し引いた二二〇五万九六七八円が、原告の昭和四八年分の金融業に係る事業所得金額である。
6 本件各更正の適法性
原告には本件係争年分を通じて金融業に係る事業所得以外の各種所得はないので、本件係争年分の各年分の金融業に係る事業所得金額がそれぞれの年分の総所得金額となり、その金額は昭和四六年分が四九二〇万〇九八五円、昭和四七年分が二五三〇万八三四〇円、昭和四八年分が二二〇五万九六七八円である。したがつて、本件各更正に係る総所得金額は、本件係争年分の各年分におけるそれぞれの総所得金額の範囲内であるから、適法である。
7 本件各賦課決定の適法性
原告の本件係争年分の総所得金額は右6のとおりであるので、原告は過少に申告を行つたものであり、過少申告加算税の納付義務を負う。その額は、昭和五九年法律第三号による改正前の国税通則法六五条一項を適用してこれを計算すると、いずれも原告の総所得金額の範囲内でされた本件各更正により納付すべき所得金額となる昭和四六年分については別表一の<1>の「納税額」の欄の番号一一の項の金額と同欄の番号一の項の金額との差額であり一四六五万一〇〇〇円(ただし、同法一一八条三項により一〇〇〇円未満を切り捨てた後のもの)、昭和四七年分及び昭和四八年分については別表二の<1>及び別表三の<1>の各「納税額」の欄の番号六の項の金額と各「納税額」の欄の番号一の項の金額との差額である昭和四七年分は五九五万五〇〇〇円、昭和四八年分は三二五万六〇〇〇円(右同)に、それぞれ一〇〇分の五の割合を乗じた金額である昭和四六年分は七三万二五〇〇円(ただし、同法一一九条四項により一〇〇円未満を切り捨てた後のもの)、昭和四七年分は二九万七七〇〇円(右同)、昭和四八年分は一六万二八〇〇円となる。したがつて、本件各賦課決定の過少申告加算税の額は、右により計算した額と同一であるから、適法である。
四 被告の主張に対する認否及び原告の反論
1 被告の主張1(推計の必要性)について
(認否)
(一)の事実は認める。(二)は、被告が所部の税務職員をして原告の本件係争年分に係る所得税の調査に当たられたこと、昭和四九年一一月一二日、同月二〇日及び同年一二月一日に原告宅において、同月六日、同月七日及び同月九日に西新井税務署において、原告に対する調査が行われたことは認め、その余の事実は否認する。(三)は、原告が右調査において、林事務官に対し、本件係争年分に係る貸付金原簿及び領収書を提示したこと、原告が同事務官の質問に対し、銀行取引に関して、三菱銀行千住支店、足立信用金庫竹の塚支店及び東京相互銀行梅島支店と取引がある旨、株式の売買に関して、原告が以前に大福証券本社を通じて株式の売買をしていたが、現在はしておらず、株式売買に関する当時の資料は保存していない旨、それぞれ答えたことは認め、その余の事実は否認する。(四)は、原告が本件各修正申告をしたこと、同月九日に住発及び金子の各作成名義に係る被告主張の内容の確認書各一通を提出したことは認め、その余の事実は否認する。(五)、(六)の事実は否認する。(七)の主張は争う。
(反論)
推計課税は、実額課税により得ない場合にやむ得ず用いられる課税方法であるから、所得の実額計算が可能となる資料が存在する場合には、推計課税は許されない。
本件については、被告は、税務調査に入つてから本件各更正をするまでの間、原告に対し、本件預金口座への入金について貸付元本返済及び受取利息の内訳を何ら尋ねることをせず、実額把握のため原告に協力を全く求めようとしなかつた。このように、被告は、実額課税を行おうとせず、推計課税の方法を濫用して本件各更正を行つたものであるから、本件各更正は違法である。
また、仮に本件更正の時点において推計課税の必要性があつたとしても、その後、受取利息の額を実額で認定できる資料を原告が提出したことや、調査により判明した貸付先を反面調査することなどを通じて実額課税をすることが用意にできる情況となつたのであるから、本訴において推計課税による所得金額の主張をすることは許されない。
2 同2(推計の合理性)について
(認否)
(一)の事実は認める。ただし、協和銀行足立支店の山崎知子名義の普通預金口座は、昭和四六年分についてのみ原告の金融業の入金に利用したに過ぎない。(二)は、本件預金口座への入金には、貸付けに係る入金及び貸付外入金があることは認めるが、貸付外入金としては、被告の例示する金融業に関わらない入金はもちろん、原告の個人的な入金もある。(三)ないし(五)の主張は争う。
(反論)
被告主張の受取利息割合は、本件係争年の各年中に実行された貸付けだけについての貸付元本返済及び受取利息の額に基づいて算出したものでないから、右の受取利息割合は当該年分における真実の受取利息割合ということはできないものである。したがつて、右割合を用いた推計には合理性がない。
3 同3(昭和四六年分の事業所得金額)について
(一)(認否)
(一)の(1)は、住発分は否認し、その余の事実は認める。昭和46年分の住発分は二〇〇万円を超えないものであり、これに反する住発の帳簿(総勘定元帳等)は信憑性がない。
(一)の(2)は、本件預金口座へ入金された金額及びその内訳である別表一の<6>の「入金年月日」の欄記載の日に「入金額」の欄記載の金額が本件預金口座へ入金されたことは認め、同表の「原告の主張」の欄の「認否」の欄に「○」印を付けたものは、被告主張の貸付先から入金された実額把握分入金であつて、推計の基となる金額に算入されないものであることを認め、「×」印を付けたものは、「原告の主張」の欄の「理由」の欄に記載の貸付先からの実額把握分入金(ただし、括弧内に記載の者が支払人である小切手又は手形による入金である。)又は利息収入を伴わない性格の入金であるから、推計の基となる金額に算入すべきでない入金であり、「<×>」印を付けたものは、推計の基となる金額に算入すべきできないことは認めるが、その理由が被告主張と異なるものであつて、その理由は「原告の主張」の欄の「理由」の欄に記載の者(原告も含む。)からの入金であり、その余の事実は否認し、推計収入額の算出方法の妥当性は争う。
(反論)
仮に推計課税が許されるとしても、被告は、審査請求の段階において受取利息割合を本件係争年三年間を通算して計算される一四・七三パーセントと主張していたところ、本訴では右数値を超えた数値を主張するが、右主張の変更は信義則に反し許されず、本訴でも受取利息割合は一四・七三パーセントとすべきである。この点は、昭和四七年分及び昭和四八年分の各受取利息割合についても同様である。
(二)(認否)
(二)は、申告必要経費額が一九四万七六三四円であることは認める。
(反論)
必要経費は収入金額に対応して発生するもものであるから、確定申告における収入金額を超える収入がある場合には、その未申告の収入金額(以下「未申告収入金額」という。)に対応する必要経費の額(以下「未申告収入金額」という。)に対応する必要経費の額(以下「未申告必要経費」という。)が発生しており、昭和四六年分については、申告必要経費額のほかに、未申告収入金額に対し、同年分の確定申告書の申告総所得金額一七五万七一四八円と申告必要経費額一九四万七六三四円との合計額三七〇万四八七二円に占める申告必要経費額の割合(以下「必要経費割合」という。)である五二・五七パーセントを乗じた金額相当の未申告必要経費額が加算されなければならない。
また、被告は、審査請求の段階において原告の本件係争年分の各必要経費の額を、同業者の平均的な一般経費率を用いて算定しており、その比率として昭和四六年分については一八・五六パーセント、昭和四七年分については一六・二四パーセント、昭和四八年分については二〇・〇九パーセントを主張し、審査裁決では右主張が採用されたのであるから、これと異なる主張は信義則に反し許されないのであり、本訴でも、少なくとも収入金額に二〇・〇九パーセントの割合を乗じた金額相当の必要経費の額が認められるべきである。そして右のことは、昭和四七年分及び昭和四八年分の必要経費の額についても同様である。
(三) (三)の事実は認める。
(四) (四)の事実は否認する。
4 同4(昭和四七年分の事業所と苦金額)について
(一) (一)の(1)は、住発分は否認し、その余の事実は認める。昭和四七年分の住発にかかる受取利息額は一八〇万円を超えない。
(一)の(2)は、本件預金口座へ入金された金額は認め、その余の事実は否認し、算出方法の妥当性は争う。なお、別表二の<6>についての認否は、前記3の(一)と同様である。
(二) (二)は、申告必要経費が一六七万三六七九円、建物減価償却費が六万二三七〇円であることは認める。
しかし、前記3の(二)と同様に、昭和四七年についても、申告必要経費額のほかに、未申告収入金額に同年分の必要経費割合である六四・三四パーセントを乗じた金額相当の未申告必要経費額が加算されなければならない。
(三) (三)の事実は否認する。
5 同5(昭和四八年分の事業所得金額)について
(一) (一)の(1)は、住発分は否認し、その余の事実は認める。昭和四八年分の住発に係る受取利息額は二〇万円を超えない。
(一)の(2)は、本件預金口座へ入金された金額は認め、その余の事実は否認し、算出方法の妥当性は争う。なお、別表三の<6>についての否認は、前記3の(一)と同様である。
(二) (二)は、申告必要経費額が二四五万二一一七円であることは認める。
しかし、前記3の(二)と同様に、昭和四八年分についても、申告必要経費額のほかに、未申告収入金額に同年分の必要経費割合である四一・五〇パーセントを乗じた金額相当の未申告必要経費額が加算されなければならない。
(三) (三)の事実は否認する。
6 6(本件各更正の適法性)のうち、原告が本件係争年分を通じて金融業に係る事業所得以外の各種所得がないことは認め、主張は争う。
7 7(本件各賦課決定の適法性)は争う。
五 原告の反論に対する被告の再反論
1 推計の必要性について
被告は、原告の本件係争年分の所得について調査した結果、現在にいたるも、本件預金口座へ入金された金員に関し、貸付けに係る入金のすべてについては内訳を把握できなかつたので、受取利息の額を実額で認定できた分については実額により、内訳を把握できなかつた貸付けに係る入金分については推計により、原告の所得金額を算定したものであり、この点についての原告の反論は失当である。
2 受取利息割合について
利息は、貸付先、貸付期間の長短、担保の情況、貸付資金の源泉及び貸付方法等の諸条件により相違するものであり、個別性が現れるものであるから、利息を算出するについての数年分の受取利息割合を通算した平均値で計算する場合は、通算する年分が変わればその数値が変動することになり、いわば相対的な数値になる。したがつて、右の通算平均値による受取利息割合は、所得税の原則である暦年課税に係る推計の基礎数値として必ずしも適切なものとはいい難い。これに対し、各年別の貸付状況を反映した各年分ごとの受取利息割合は、絶対的な数値であり、この割合を用いる推計方法は、合理性があるといえるものである。
3 必要経費について
被告主張の必要経費の額は、担当官らが原告から提示された領収書に基づき調査した結果、家事関連的な支出が算入されていたものの、その数額は申告必要経費額(ただし、昭和四七年分については、右のほかに建物減価償却費を加算している。)と一致したので、右額をもつて必要経費額と認定したのである。
原告のような金融業においては、契約に関する費用、弁済に関する費用は通常債務者(借主)が負担していること、債務者が契約を有利に締結するため、あるいは貸主を紹介してもらうため、接待交際費を支出することはあつても、債権者(貸主)が債務者のために右費用を支出するものではないこと、集金業務についても、手形貸付け、手形割引の場合は、その手形の支払期日に自己の取引金融機関を通じて手形を呈示すれば足りること、所得金額の増減に影響を及ぼすものとしては、貸倒金及び金主(貸付資金の調達先)に対する支払利息という実態が存し、これによると、一般の経費は収入金額に比して僅少であるというべきである。したがつて、金融業に係る必要経費は、必ずしも収入金額に対し比例的に増加するものではなく、むしろ、一般の経費については平準化されているというべきである。
さらに、原告の場合は、自宅において目印程度のごく小さな看板を掲げ、原告一人が業務に従事しているのみである(ただし、昭和四六年は山崎知子を事業専従者としている。)から、必要経費の額についてはなおのこと少額であるといえるものである。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 書証の成立関係及び略語
本判決理由において使用する各書証の成立関係は別紙一のとおりである。なお、本件預金口座名、貸付先、手形等の支払人(個人、会社等)等につき、別紙二の略語を使用する。
二 本件各処分等の経緯
請求原因1ないし4の事実(本件各申告、本件各修正申告本件各処分及び不服申立ての経緯)は、当事者間に争いがない。
三 信義誠実の原則、禁反言の法理に違反する旨の主張に対する判断
1 原告は、担当官らからの、本件係争年分の所得税につき修正申告をすれば、以後更正をしない旨の提案を受け入れて修正申告に応ずることとし、その旨の約束を得た上で、本件各修正申告をしたのであるから、右約束に反してされた本件各更正は、信義誠実の原則、禁反言の法理に反する違法なものであると主張する。
2 甲第一号証の一、第二号証、証人林一夫、同志村正の各証言及び原告本人尋問(第一回)の結果(ただし、後記措信しない部分を除く。)に弁論の全趣旨を併せ考えれば、以下の事実が認められる。
(一) 被告は、昭和四九年一一月一二日ころから、原告の本件係争年分の所得税について税務調査を開始し、同月二〇日から担当官ら(林事務官及び志村調査官)が同調査を担当することになつた。
(二) 担当官らは、同年一二月六日、西新井税務署において、来署した原告に対し、それまでに行つた調査に基づく結果だけからでも、原告の本件各申告は過少であると判断せざるを得ない旨を伝え、修正申告の必要があることを示唆するとともに、住発との間の取引の内容及びその他の貸付先との取引で原告から提示された貸付金原簿に記載された取引以外の取引の内容が不明であるので、この点を明らかにする取引関係書類を提出するよう求めた。原告は、本件各申告が過少であることを認めた上、既に担当官らに提示した貸付金原簿及び領収書以外に金融業に関する書類は保存していないが、本件係争年における住発からの受取利息額は合計四〇〇万円程度である旨答え、これについて証拠となる書類を提出することを承諾する一方、被告が把握した原告の本件係争年分に係る資産、負債の額を教えてもらい、それに基づいて修正申告をしたいと申し入れた。志村調査官は、林事務官に命じて、その時点で被告側が把握していた原告の本件係争に係る資産、負債の状況を基に、資産増減法により、各年分の原告の概算総所得金額を算出させ、これを修正申告書用紙に書き入れさせ、右用紙を原告に渡した。その際、原告は、担当官らに対し、修正申告をするので以後調査を中止してもらいたい旨求めたが、志村調査官は、先に提出方を求めた取引関係書類が提出され、これを検討して修正申告の内容につき納得が得られれば調査を止めるが、そうでなければ調査を継続する旨答え、重ねて右書類を提出するよう求めた。
(三) 翌七日、原告は、西新井税務署を訪れ、前日担当官らから渡された記入済みの修正申告書用紙をそのまま用いて本件修正申告をした後、担当官らに対し、調査を打ち切るよう要請した。これに対し、志村調査官は、原告から取引関係書類が提出されればこれを検討し、この結果修正申告の内容が納得できれば調査を打ち切る旨答えた。
(四) 原告は、同月九日、担当官らに対し、住発及び金子満夫の作成名義に係る確認書各一通を提示した。担当官らが右各確認書の内容を検討したところ、住発の確認書は、本件係争年に住発が原告に対し合計四〇〇万円の利息を支払つた旨の記載がされたものであるが、原告と住発との具体的な取引内容等は記載がなく、また、金子の確認書は、昭和四八年末現在金子が原告に対し三五〇万円を貸し付けている旨の記載がされたものであるが、貸付日、利息等契約内容は記載がなく(ただし、右各確認書の記載内容については当事者間に争いがない。)、住発以外の貸付先(原告から提示された貸付金原簿に記載のもの)取引関係に関する書類の提示は全くなかつた。そこで、担当官らは、原告に対し、右各確認書は先に担当官らが提出を求めた内容を満たす書類ではないこと、したがつて調査はなお継続をせざるを得ない旨を伝えた。これに対し、原告は、本件各修正申告をしたことと右各確認書を提示したことを理由に、調査を終了してもらいたい旨求めたが、担当官らはその要求には応じられないと答え、調査を継続した。
右認定に反する原告本人尋問(第一回)の結果の一部は、前掲各証拠に照らし容易に採用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
3 右認定の本件各修正申告に至る経緯からは、担当官らが原告に対し、原告主張の提案や約束をしたとの事実があつたものとは考え難く、また、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
したがつて、右の事実が存在することを前提とする原告の前記信義誠実の原則等違反の主張は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
四 原告の所得の認定方法
1 推計の必要性について
(一) 原告が金融を業とするいわゆる白色申告者であること、被告が、所部の職員として原告の本件係争年分の所得税の調査に当たらせ、昭和四九年一一月一二日、同月二〇日及び同年一二月一日に原告宅において、同月六日、同月七及び同月九日に西新井税務署において、原告に対する税務調査が行われたこと、原告は、右調査において、林事務官に対し、本件係争年分に係る貸付金原簿及び領収書を提示し、銀行取引に関して、三菱銀行千住支店、足立信用金庫竹の塚支店及び東京相互銀行梅島支店と取引がある旨、株式の取引に関して、以前に大福証券本社を通じて株式の売買をしていたが、現在はしておらず。株式売買に関する当時の資料は保存していない旨答えたこと、同月九日、原告が住発及び金子の作成名義の確認書各一通(前記三の2の(四)記載の内容のもの)を提出したことは、当事者間に争いがない。
(二) 甲第一号証の一、第二号証、乙第一、第三号の各一、二、第五号証、証人林一夫、同志村正の各証言及び原告本人尋問(第一、二回)の結果によれば、被告が原告から提出された本件係争年分の所得税の確定申告書を検討したところ、原告が本件係争年中に多額の株式及びゴルフ会員権を取得し、また、昭和四七年に多額の医療費控除の申告をしていることが認められるが、申告所得額だけでは右の資金として相当に不足するので、その資金源等を把握し、申告の真否を確認する必要があると判断したこと、原告の金融業に係る事業所得の収入である受取利息収入に関して、右(一)のとおり被告の調査において原告から貸付金原簿、領収書及び確認書の提示及び応答があり、申告収入金額及び申告必要経費額は右貸付金原簿及び領収書により一応裏付けられてはいたが、原告は、右書類以外には金融業に係る帳簿書類等を作成、保存しておらず、右貸付金原簿の作成に供したはずの手形、小切手等の提示もせず、取引金融機関の開示も三行に限られ、しかも、その名称のみで取引内容は明らかにしなかつたこと、そのため被告は、原告に対する調査だけでは、金融業に関して、右の貸付金原簿及び領収書から把握できた受取利息収入及び必要経費以外の収支状況、内容を把握することができなかつたこと、右(一)の確認書のうち住発作成名義のものも、原告と住発との間の具体的取引内容を明らかにするに足りるものではなかつたこと、原告は、右(一)の確認書を提示した後、被告の調査に全く協力しなかつたこと、被告が原告から開示れた取引金融機関三行に対する照会をした結果、原告には右の金融機関以外にも取引をしている金融機関があり、また、右貸付金原簿に記載されていない貸付先及び取引があることが認められたこと、被告は、これらについていわゆる反面調査を行つたところ、貸付先において、取引内容を明らかにしないなど調査に協力しない者、帳簿を作成していない者、あるいは行方が分からない者があるなどの事情もあつて、その全部について原告の受取利息収入を実額で認定することはできなかつたこと、他方、原告自身も本件各申告が過少申告であることはこれを自認していたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(三) 右(一)及び(二)によれば、原告の金融業に関する所得について、原告はその全容を明らかにするだけの帳簿書類等の備付けないし保存をしておらず、また、原告提出の書類だけではその全容が明らかにならなかつたのであり、さらに、原告の非協力などもあつて、被告は、その調査によつても、その全部を実額で認定することはできなかつたのであるから、右の所得を実額で認定することは不可能ないし著しく困難であるというべきであり、推計の必要性があることは明らかである。
2 推計の合理性について
(一) 本件係争年において、原告が原告に帰属する本件預金口座を融資、取引銀行等と普通預金取引を行つていたこと、本件預金口座への入金には貸付けに係る入金及び貸付外入金があること(ただし、原告は、協和銀行足立支店の山崎知子名義の普通預金口座については、昭和四七年及び昭和四八年には貸付けに係る入金はない旨を主張している。)は、当事者間に争いがない。
(二) 乙第七ないし第一一号証、第一三号証、第一四ないし第一八号証の各一、二、第一九のないし第二四号証、第三三ないし第三六号証、第三七、第三八号証の各一、第四〇号証、原告本人尋問(第一、二回)の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件預金口座を利用して金融業に係る入金を受け入れており、金融業以外の事業として行つていた保険代理店業に係る入金については、本件預金口座とは別に有していた安田火災代理店名義の口座を専ら利用していたこと、協和銀行足立支店の山崎知子名義の普通預金口座には、昭和四六年だけでなく、昭和四七年及び昭和四八年にも、それぞれ原告の貸付先である住発及び吉富、酒井からの入金があること、本件預金口座には、原告及びその家族の生活費等といつた家事上の入出金であると明確に指摘できるものはないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(三) 右(一)及び(二)によれば、原告は、本件係争年において、協和銀行足立支店の山崎知子名義の普通預金口座を含めて、本件預金口座を専ら原告の金融業に係る入金のための預金口座として使用していたものであつて、原告の家事上のものとしては使用していなかつたものと推認することができ、この推認を覆すに足りる証拠はない。
そうすると、本件預金口座への入金は、明らかに貸付外入金と認定できるものを除けば、すべて貸付けに係る入金であるといつて差し支えないこととなる。
(四) 被告は、本件預金口座への入金のうち、貸付外入金及び実額把握分入金を除いたものを推計の基となる金額としているが、本件預金口座への入金内容によれば、その入金のうち、貸付外入金及び実額把握分入金を除いたもの(内訳未把握分入金)がその受取利息の額を実額で認定できない貸付けに係る入金(貸付元本返済及び受取裡利息)であるから、この入金を対象としてそこから受取利息の額を推計で算定するという方法は相当ということができる。
(五) 被告は、受取利息割合を内訳未把握分入金の額に乗じて受取利息の額を推計する方法を採り、その受取利息割合として、本件係争年の各年ごとにおける被告の主張2の(三)の<2>の貸付けに係る受取利息及び貸付元本返済の額の集計額に対する右受取利息の額のみの集計額の割合を用いている(被告の主張2の(四)参照)。
後記五の1の(二)で述べるとおり、住発に係る受取利息の額は、住発の総勘定元帳等に基づいて実額で認定できるのであるが、これに対応する貸付元本及びの返済の額がすべて把握されているわけではない。これに対し、被告の主張2の(三)の<2>の貸付けについては、弁論の全趣旨によれば、原告提出の貸付金原簿により、受取利息の額並びにこれに対応する貸付元本返済の額のすべてが明らかとなつているのであり、これに係る実額収入額は、当該年中に現実に入金となつた受取利息の額から、次年に帰属する未経過利息の額を減じ、前年中に入金となつた当該年に帰属する前受利息(前年の未経過利息)の額を加えて認定されれたものであることが認められる(なお、本件係争年分のこの実額収入額は、いずれも当事者間に争いがないところである。)。
右によると、住発に係る受取利息の額と、被告の主張2の(三)の<2>の貸付けに係る受取利息の額とは、前者がそれに対応する貸付元本返済の額のすべてが判明しているわけではないのに対し、後者がそれに対応する貸付元本返済の額のすべてが判明しているという点において、明らかに異なつており、貸付元本返済及び受取利息からなる貸付けに係る入金についての受取利息割合を算定する上で、前者の住発分を除くことは、その推計方法に鑑み合理的ということができる。
また、推計の基となる内訳未把握分入金の中に含まれるはずの受取利息については、その性質上、本件預金口座に入金になつた時点以外に発生時点を補捉することは困難であるから、本件係争年の各年ごとの受取利息割合も、それを算出するに当たつて右のように当該年中に入金になつた受取利息の額を用い、当該年中に発生した受取利息(当該年分の収入金額としての受取利息)の額によらないこととしても、内訳未把握分入金とその点で対応してるから、合理性を有するということができる。なお、この点に関連して付言するに、本件では、右の当該年中に発生した受取利息の額(以下「発生利息の額」という。も判明しているから、受取利息割合を用いる代わりに、被告の主張2の(三)の<2>の貸付けに係る受取利息及び貸付元本返済の額の集計額に対するそれに対応する発生利息の額の集計額の割合(以下「発生利息割合」という。)を用いる方が適当であるとの考え方もないとはいえない。しかしながら、事業が継続して行われ、その状況にさほどの変動がないと認められる場合には、一般に、各年ごとの未経過利息はほぼ同一の額であり、それが差異を生ずるとしても推計に際し考慮を要しない偶発的な事情によるものであると考えるのが相当であるから、受取利息割合を用いて算出した利息の推計額をもつて発生利息の推計額とすることは、発生利息割合を用いて算出した利息の推計額によることと比べて、必ずしも合理性において劣るものとはいえないというべきである。そして、弁論の全趣旨によると、原告の金融業は、本件係争年を含むその前後において、継続して行われ、その状況にさほどの変動がなかつたことが認められ、また、本件係争年の各年ごとに、内訳未把握分入金のうちの受取利息につき、未経過利息の額が偶発的でない事情により異なることについては立証がないから、被告主張の推計方法は、右の観点において合理性を欠くわけではない。
(六) 原告は、仮に推計課税が許されるとしても、受取利息割合につき、被告としては、審査請求において主張した本件係争年を通算して算定した受取利息の割合である一四・七三パーセントを超える割合を主張することは、信義則に反し許されないとし、本訴でも右割合を採用すべきであると主張する。
しかし、本訴において、被告が審査請求時の主張と異なる推計方法及び推計の基となる数値(比率)を主張することができないとすべき根拠は見当たらない。
そして、暦年課税を旨とする所得税においては、推計の数値として暦年ごとの数値が把握できる場合には、その数値の方が数年間の通算値より一般的に合理的と考えられるところ、甲第一三号証の一ないし三、第一四号証、第一五号証の一ないし四、第一六号証、第一七号証の一、二、第一八号証、第一九号証の一、二、第二〇ないし第三二号証によれば、被告の主張2の(三)の<2>のの貸付けについては、本件係争年のいずれの年に関しても、受取利息割合を算定する前提となる各年中に入金となつた受取利息の額及びこれに対応する貸付元本返済の額が把握、算定できることが認められる。一方、別表一ないし三の各<6>の「入金年月日」の欄に記載の日に「入金額」の欄に記載の金額が本件預金口座に入金となつていることは当事者間に争いがないので、それから貸付外入金及び実額把握分入金を除くことによつて、各年ごとの内訳未把握分入金を算出することができる。また、住発分を除く実額収入額算定に係る貸付け(被告の主張2の(三)の<2>の貸付け)と内訳未把握分入金に係る貸付けの間で、貸付条件を異にするものである事実を窺わせるに足りる証拠はない。
そうすると、各年ごとの受取利息割合を推計の数値とすることは、原告主張の本件係争年三年間を通算して計算される受取利息の割合を推計の数値とすることに比べてより合理的であるということができる。
したがつて、原告の主張は採用することができない。
(七) 以上によれば、被告主張の推計方法は合理性を有するものといつてよい。
五 昭和四六年分の事業所得
1 実額収入額
(一) 争いのない受取利息の額
別表一の<2>のうち、住発を除くその余の貸付先からの昭和四六年分の収入金額としての受取利息の額(合計三三七万五五一二円)は、当事者間に争いがない。
(二) 住発に係る受取利息の額
(1) 本件全証拠中、本件係争年分の住発に係る受取利息の額を把握するに足りる証拠としては、住発の総勘定元帳のうちの支払利息、割引料勘定部分(以下、単に「支払利息勘定部分」という。)である乙第二七、第二九、第三一号証及び借入先元帳のうちの原告からの借入金勘定部分である乙第二八、第三〇、第三二号証があるだけであり(以下、右帳簿を併せて「住発帳簿」という。)、右はいずれも証人志村正の証言により真正に成立したものと認められることは別紙一のとおりである。しかし、原告は、住発に係る受取利息の額は昭和四六年分については四〇〇万円を、昭和四七年分については一八〇万円を、昭和四八年分については二〇万円を超えないものであつて、住発帳簿は信憑性がないと主張し、それに沿う証拠として住発作成の確認書である甲第一号証の一を提出する。
住発帳簿は、商法三二条一項の会計帳簿に該当するものであり、その記載方式及び記帳事項はともに会計帳簿としての内容に書けるところはなく、それらは本件係争年を通じて連続しているものであり、その記帳自体に特段不自然さを窺わせるものはない。そうすると、住発帳簿は、業務の通常の過程において作成されたもので、反証のない限り、その内容は真実であると解するのが相当である。
ところで、乙第二七ないし第三二号証によれば、住発帳簿における原告に対する支払利息、割引料(いずれも実質上利息である。以下、単に「支払利息」という。)は、昭和四六年においては別表一の<3>の、昭和四七年においては別表二の<3>の、昭和四八年においては別表三の<3>のそれぞれ「住発の総勘定元帳における支払利息の記帳内容」の欄のとおりであると認められる(ただし、別表三の<3>の番号二については後記七の1の(二)の(2)参照)。このうち、本件証拠上、本件預金口座に入金されていると明確に認定できるものは、右各表の「原告入金状況」の欄に記載のものであるが(その「口座名」の欄に記載の本件預金口座に、「入金年月日」の欄に記載の日に、「入金額」の欄に記載の金額が入金となつている。ただし、「入金額」の欄に括弧書きが付されていたものは、括弧内の金額のみが利息の額である。また、「証拠」の欄に記載の書証は、右認定に供した証拠である。)、これに限つてみても、その合計は、昭和四六年度は五一八万六八〇〇円(なお、次の(2)で述べる川上名義の貸付けに係る利息を除いても五〇五万三八〇〇円である。)、昭和四七年度は二八二万五一〇〇円(なお、次の(2)で述べる川上名義の貸付けに係る利息を除いても二七二万五三五〇円である。)であり、いずれも原告主張の住発に係る受取利息の額を超えるものである。
他方、原告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告は住発に関する貸付けについて貸付金原簿等の帳簿書類を作成、保存しておらず、原告側で有する取引関係書類により住発帳簿の記載内容の真実性を疑わせるものは全くない。原告がその主張の根拠として提出する甲第一号証の一の確認書及び同号証の二の陳謝書は、そもそも具体的な取引内容の記載がされてはおらず、しかも、右で述べたとおり、そこに記載の利息の額(本件係争年に四〇〇万円)は、本件預金口座へ入金されたことが明確な受取利息の額(住発の側からは支払利息の額)だけによつても既に過少であることが認められ、さらに、証人志村正の証言によれば、担当官らが右確認書の内容について住発に問い合わせをしたところ、住発側の回答は、原告に頼まれてやむなく原告の言うままの内容で作成したものであるというものであつたことが認められる。そうすると、右確認書及び陳謝書の内容は信憑性に欠けるものと考えざるを得ない。
以上によれば、右確認書は住発帳簿の信憑性を疑わせるものとはいい難く、その他住発帳簿の記載内容は、信用できるものと考えてよい。
(2) 甲第一二号証の一ないし三、乙第二七号証、原告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告は、昭和四二年七月二四日、住発の代表者である川上を借主名義として、九五万円を月利四パーセント(ただし、昭和四三年四月二二日以降月利三・五パーセントに変更された。)で貸し付け、それ以後住発との金融取引が始まつたこと、右の九五万円の貸付けは昭和四七年六月二二日に貸付元本が返済されたが、その間の利息(当初は毎月三万八〇〇〇円、利率変更後は毎月三万三二五〇円)の相当部分は、住発が他の貸付けに係る利息の支払いと一緒に支払つており、住発と原告との金融取引においては、川上と住発との区別はなかつたことが認められる。
右事実によると、右の九五万円の貸付けの借主は、名義は川上であるが、真実は住発であると解するのが相当である。
したがつて、以下においては、右の九五万円の貸付けに係る受取利息も住発に係る受取利息に含めるものとする。
(3) 乙第二七号証によれば住発の昭和四六年の総勘定元帳の支払利息勘定部分において、住発が原告に対して支払つた旨記載されている支払利息についての支払の年月日、金額及び摘要は別表一の<3>の「住発の総勘定元帳における支払利息の記帳内容」の欄に記載のとおりであることが認められ、これによると、昭和四六年において、原告は住発から、右のとおり(ただし、同表の番号二九二ないし二九七を除く。これらについては後述する。)、受取利息を受領しているものということができる。
そして、右摘要の内容及び証人志村正の証言、原告本人尋問(第1回)の結果によれば、原告は住発に対する貸付けにつき利息天引によつていたことが認められ、これによると、右支払利息(原告の側からは受取利息)のうちには、昭和四六年分の収入に計上できない利息、すなわち未経過利息(同年内の期間に対応せず、翌昭和四七年内の期間に対応する利息)が含まれていることが窺われる。ところで、右摘要の内容によれば、利息の計算期間は最長でも一か月(ただし、起算日から翌月の応当日までという厳密にいえば一か月一日のものもある。しかし、これは極めて例外的である。)であると解されること、原告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告は原則として月利により利息を定め、月ごとに利息の支払を受けていたことが認められることを総合すると、住発に係る貸付けにおいて、その支払われた利息に対応する計算期間は、原則として支払日より一か月とし、例外的に別の起算日やこれより短い期間を定めていたものと推認することができる。そうすると、同年一二月二日以降に支払われた利息(番号二六一以降のもの)については、未経過利息が含まれている可能性があることになる。
番号二六一ないし二九一につき右摘要の内容から判断するに、その全額が昭和四六年内の期間に対応する利息と認められる番号二六七、二六八、二八七の利息については、その全額を同年分の収入に計上して差し支えない。番号二八九及び二九一の利息については、昭和四七年内の期間に対応する利息と認められるから、昭和四七年分の収入であつて、昭和四六年分の収入には計上すべきではない。番号二七九の利息については、同年一二月一五日から昭和四七年一月一四日までの期間に対応する利息と認められるから、昭和四六年内の期間である一七日分一万五三五四円(ただし、円未満切捨て。以下本(3)において同じ。)のみを同年分の収入に計上すべきである。その余りのものの利息については、その対応する期間を明らかにする記載もなければ(ただし、番号二八四及び二八五については、支払日を利息計算の起算日とする旨の記載がある。)、証拠もないから、右で述べたところにより、その対応する期間は支払日から一か月と推認すべきであり、これによつて昭和四六年内の期間に対応する利息を計算すると、別表一の<3>の番号二六一ないし二六六、二六九ないし二七八、二八〇ないし二八六、二八八、二九〇の各「金額」の欄の括弧内の金額となり、これが、同年分の収入に計上すべきものである。
なお、番号二九二ないし二九七については、乙第二七、第二八号証によると、右はいずれも昭和四六年一月ないし一二月の事業年度の決算の際に支払利息の計上漏れがあつたとして期末にまとめて修正記帳されたものであり、そのうち番号二九三ないし二九七の摘要には、その内容として受取手形により原告に対し利息を支払つたものである旨の記載がされていることが認められる。しかし、その支払利息なるものがいかなる借入金から発生したのか、あるいは、その支払利息が実際に計上漏れであつたのかを確認するに足りる住発帳簿の記載もなければ、他の証拠もない。そうすると、番号二九二ないし二九七については、住発帳簿の記載にもかかわらず、その額を原告が住発から受取利息として受領したものということはできない。
さらに、原告が住発から昭和四五年中に受け取つた利息のうち、同年分の収入に計上できず、昭和四六年分の収入に計上すべき前受利息(昭和四五年における未経過利息)が存在することを認めるに足りる証拠はない。
以上によれば、昭和四六年分の収入金額としての住発に係る受取利息の額は、別表一の<3>(ただし、番号二九二ないし二九七を除く。)の「金額」の欄の記載額(括弧書きが付されたものは、括弧内の金額)を加算(番号九四及び一三八については減算)した二五〇六万五四三六円となる(なお、原告の住発に対する貸付金の利息が利息制限法所定の制限利率を超過するものとしても、前記のとおりその全額が既収のものであるから、制限利率超過の故に右の金額が収入金額とならないということはない。)。
(三) まとめ
右(一)及び(二)によると、昭和四六年分の実額収入額は、二八四四万〇九四八円となる。
2 推計収入額
(一) 昭和四六年中に本件預金口座へ入金された金額及びその入金日が別表一の<6>の「入金額」及び「入金年月日」の各欄に記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。そして、推計収入額の推計方法は、前記四の2(特にその(五))で述べたとおりであるから、本件預金口座への入金額から貸付外入金及び実額把握分入金を除いたものが推計の基となる金額に算入される入金である。
ところで、住発に係る受取利息の額は、住発帳簿により実額で把握されたから、本件預金口座への住発に係る入金は実額把握分入金として控除されなければならない。
(二) 別表一の<6>の「原告の主張」の欄の「認否」の欄に「○」印が付いている入金について
右入金は、被告主張の貸付先から入金された実額把握分入金(貸付元本返済及び受取利息の入金)であることは、当事者間に争いがない。
(三) 別表一の<6>の「原告の主張」の欄の「認否」の欄に「<×>」印が付いている入金について
成和の番号二九のうちの一万七六五〇円については、乙第一四号証の二、原告本人尋問(第二回)の結果によれば、東京海上火災株式会社が支払人である小切手又は手形(以下、当該取り引き銀行等の小切手又は手形でない小切手又は手形を「他店券」という。)による保険金の支払としてされた入金であることが認められる。これによると、右入金は貸付外入金である。
(四) 別表一の<6>の「原告の主張」の欄の「認否」の欄に「×」印が付いている入金について
(1) 原告が吉富からの入金であると主張するもの(協和Kの番号三、一八、三五、五三、六六、八三)については、乙第一四号証の二、第一九号証、原告本人尋問(第二回)の結果によれば、番号三、一八、三五はいずれも武蔵野Sが支払人である他店券、番号五三、六六、八三はいずれも宝生が支払人である他店券による入金であること、そのうち、宝生が支払人であるものは原告の貸付先である吉富からの入金であることが認められるが、武蔵野Sが支払人であるものについては吉富からの入金であることを認めるに足りる証拠はない。そして、吉富からの入金と認められる分も含めてそれらが貸付外入金又は実額把握分入金であることを認めるに足りる証拠はない。
(2) 原告が島田からの入金であると主張する成和の番号三〇及び六六のうちの五万円については、乙第一四号証の二、原告本人尋問(第二回)の結果によれば、島田Yが支払人である他店券による入金であり、原告の貸付先である島田からの入金まであることが認められるが、右入金が貸付外入金又は実額把握分入金であることを認めるに足りる証拠はない。
(3) 原告が笈川からの入金であると主張する成和の番号三八については、乙第一四号証の二、原告本人尋問(第二回)の結果によれば、笈川Sが支払人である他店券による入金であり、原告の貸付先である笈川からの入金であることが認められるが、右入金が貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(4) 原告が石丸からの入金であると主張する成和の番号一一九については、乙第一四号証の二によれば、支払人が内外タイムスである他店券による入金であることが認められるが、右入金が貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(5) 原告が太田徳二からの火災保険料の入金であると主張する成和の番号一二一については、乙第一四号証の二によれば、太田徳二が支払人である他店券による入金であると認められるが、右入金が火災保険料、その他の貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(6) 原告が神戸からの入金であると主張する協和Kの番号八二については、乙第一九号証、原告本人尋問(第一、二回)によれば、エスタイトが支払人である他店券による入金であること、原告は神戸の経営する永和に資金融資する方法ととして、神戸が持参した永和又はその取引先であるエスタイト振出しの約束手形を割り引いていたが、右入金はそのような手形の一つが決済されたものであることが認められ、したがつて、神戸からの貸付けに係る入金であるといつてよい。
原告は、右の手形割引に関して、その本人尋問(第一、二回)の結果中において、神戸は原告の義弟(妹の夫)であるので、利息は一切受け取つていない旨供述する。
しかし、原告において神戸が持参した約束手形を割り引く行為は、まさに原告の金融業の一環としての行為であること、乙第七ないし第九号証、第一四、第一五号証の各二、第一九、第二〇、第四〇号証によれば、エスタイト又は永和が支払人である他店券により本件預金口座へ入金されているものは、昭和四六年中に協和Kに一回、昭和四七年中に協和Kに六回、共和Tに一回、昭和四八年中に協和Kに三回あることが認められる。右のように、相当回数にわたり行われている手形割引が無利息であるとするのはいかにも不自然であり、原告の右供述部分はにわかに採用し難い。
そうすると、神戸からの右入金は、実額把握分入金とはいえず、他にそれが実額把握分入金であることを認めるに足りる証拠はない。
(7) 原告が自ら入金した又は原告の定期預金から振り替えたものであると主張するもの(協和Kの番号八七、一〇三、一〇六、一〇七、一一二、一一五、一一六、一二一、一二三ないし一二五、一四一、一五〇、一六一、一六九、成和の番号一〇、五七、平相上野の番号一三八、平相浅草橋の番号七、三菱の番号六、住友Aの番号一〇)については、乙第七、第九、第三三ないし第三六、第四〇号証によれば、住友Aの番号一〇を除き、いずれも現金により入金されたもの(他店からの振り込みも含む。以下同じ。)であること、住友Aの番号一〇は他口座から振替えにより入金されたものであることが認められる。しかし、現金による右入金が原告によりされた事実及び振替入金に係る右他口座が原告の定期預金口座である事実については、原告本人尋問(第二回)の結果によりこれを僅かに窺い得るだけであるが、右尋問の結果は、具体性を欠く曖昧なもので採用し難いから。結局、右各事実はこれを認めるに足りない。なお、右尋問の結果中に、原告はその妻が経営するアパートの家賃、管理料を原告が集金して本件預金口座へ入金していたとの部分があるが、これもまた具体性を欠き採用するに由ない。
そして、他に、右入金が貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(8) 原告が住発からの入金であると主張するもの(成和の番号一三のうちの一一万一五〇〇円、二五のうちの二〇万円、二七のうちの一六万六八〇〇円、三四、八五、一〇三、平相上野の番号五〇、五五、七三、九三、二一五、平相浅草橋の番号八、三八)のうち成和の番号一三のうちの一一万一五〇〇円を除くものについては、乙第一四号証の二、第三四、第三五号証、第三七及び第三八号証の各一及び弁論の全趣旨によれば、成和の口座への入金分はいずれも原告主張の者が支払人である他店券による入金であること、平相上野及び平相浅草橋の口座への入金分は、平相上野の番号九三を除き、いずれも他店券による入金であり、平相上野の番号九三は現金による入金であることが認められる。しかし、右入金が住発からの入金であることを認めるに足りる証拠はなく、また、貸付外入金又はその他の実額把握分入金であると認めるに足りる証拠もない。
成和の番号一三のうちの一一万一五〇〇円については、乙第一四号証の二によれば、丸鈴商事が支払人の他店券による入金であることが認められるところ、原告本人尋問(第二回)の結果中に、丸鈴商事が支払人である他店券は住発に関係するものであるかもしれないと供述する部分があるが、右供述だけでは、右入金が住発からの入金であるとまで認定するには足りず、また、他に貸付外入金又はその他の実額把握分入金に関するものと認めるに足りる証拠もない。
(五) 別表一の<3>の「原告の主張」の欄の「認否」の欄が無印の入金について
(1) 協和Kの番号一三〇、一四〇、一五三のうちの五〇万円、協和Tの番号二一、成和の番号一六のうちの九万五五〇〇円、三五、平相上野の番号四四については、乙第二七、第二八号証、原告本人尋問(第二回)の結果及び弁論の全趣旨によれば、いずれも住発に係る実額把握分入金であることが認められる。
(2) 協和Kの番号一三五については、その入金された日が昭和四六年一〇月三〇日であるところ、甲第一五号証の一によれば、右入金は島田に係る実額把握分入金である(ただし、同書証では同月二六日に入金となつているが、右入金と同一と認める。)ことが認められる。
(3) 協和Kの番号一三六については、乙第七号証及び弁論の全趣旨によれば、右入金は他店券による入金であること、右入金の三日後の昭和四六年一一月二日に右入金額と同額の金額が不渡り処理されていること、右不渡り処理の前後にその処理された金額と同額の入金は右入金以外にないことが認められ、これによると、右入金に係る他店券が不渡りになつたものと推認でき、右入金は貸付外入金であるといつてよい。
(4) 協和Kの番号一五一のうちの二万二五〇〇円については、甲第一八号証及び弁論の全趣旨によれば、右入金は横山に係る実額把握分入金であることが認められる。
(5) 協和Kの番号一六二、一六六、成和の番号一二七については、甲第一七号証の一及び弁論の全趣旨によれば、右各入金に係る実額把握分入金であることが認められる。
(6) 平相上野の番号一〇四については、その入金された日が昭和四六年六月二八日であるところ、甲第一五号証の三によれば、右入金は島田に係る実額把握分入金である(ただし、同書証では、同月二五日に入金となつているが、右入金と同一と認める。)ことが認められる。
(7) 平相浅草橋の番号一四については、甲第一五号証の三及び弁論の全趣旨によれば、右入金は島田に係る実額把握分入金であることが認められる。
(8) 右(1)ないし(7)以外の無印の入金については、いずれも貸付外入金は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(六) 以上によれば、推計の基となる金額に算入されない実額把握分入金及び貸付外入金並びに推計の基となる金額に算入される右以外の入金(内訳未把握分入金)は、別表一の<5>のとおり(ただし、括弧書きが付されたものについては括弧内の金額)であり、推計の基となる金額は、六九〇五万五五二七円となる。
(七) 受取利息割合
甲第一三号証の一、二、第一四号証、第一五号証の二、三、第一六号証、第一七号証の一、第一八号証、第一九号証の一、二、第二〇ないし第二四号証及び弁論の全趣旨によれば、原告が昭和四六年中に受け取つた住発分を除く実額収入算定に係る貸付け(被告の主張の2の(三)の<2>の貸付け)についての受取利息の額及び貸付元本返済の額の内訳は別表一の<4>の「受取利息」の欄及び「貸付元本返済額」の欄に記載のとおりであることが認められ、右により受取利息割合を算定すると二〇・六二パーセント(小数点三位以下切捨て。以下、受取利息割合について同じ。)となる。
(八) まとめ
右(六)の推計の基となる金額に右(七)の受取利息割合を乗じて推計収入額を算出すると一四二三万九二四九円(円未満切捨て。以下、推計収入額について同じ。)となる。
3 必要経費
(一) 申告必要経費額が一九四万七六三四円であることは、当事者間に争いがない。
(二) 原告は、必要経費は収入金額に対応して発生するものであるから、申告必要額に未申告収入分に対応する未申告必要経費額を加えたものが、実際に要した必要経費であると主張する。
しかしながら、原告本人尋問(第二回)の結果及び弁論の全趣旨によると、原告の金融業は、主として自己資金により、事務所も設けず、個人で自宅において営まれているものであつて、中小企業、小規模商店、自営業者等を相手方として、手形貸付、手形割引、信用貸し等の方法で金員を貸し付けているものであることが認められ、これによると、受取利息を主体とする収入の増加が必ずしも必要経費の増加を招来するものとはいい難い。そして、右主張は、収入金額が多ければ必要経費も多くなると述べるだけで、具体的に必要経費の額等を主張するものではないからそれ自体失当である。
なお、原告は、その本人尋問(第二回)において、原告の金融業における経費として貸付資金の借入れに対する支払利息、交通費、電話代、事務所経費等があり、このような経費のうち一〇回に二回位は申告必要経費額に含まれていない旨供述する。なるほど、甲第二号証、第四三、第四四号証の各一、二によれば、本件係争年において原告が他から金員を借り入れていることが認められる。しかし、仮に右借入金が原告の金融業の貸付資金であるとしても、原告の必要経費となり得るものは、昭和四八年一二月五日に足立信用金庫竹の塚支店から借り入れた六〇〇万円及び三〇〇万円に対する同年に生じた支店利息額五万八八〇六円)同日から昭和四九年一月四日までのそれぞれの利息額四万九〇四七円及び一万八四七二円のうち昭和四八年一二月五日から同月三一日までの期間に対応する額)だけであり、しかも、これが昭和四八年の申告必要経費額に含まれていないことを確認するに足りず、他に原告の右供述を裏付けるに足りる客観的証拠はないから、原告の右供述は容易に信用できない。
(三) そうすると、原告は、昭和四六年分の必要経費につき、原告が自ら確定申告書に記載した申告必要経費額を超える額を支出したことにつき疑いを抱かしめるに足りる事情すらも主張しているものとはいえず、また本件全証拠によるも右事情を認められないから、同年分の必要経費は、申告必要経費額の一九四万七六三四円を超えないものというほかない。
4 事業専従者控除
昭和四六年分の事業専従者控除額が一六万五〇〇〇円であることは、当事者間に争いがない。
5 小括
以上1ないし4によると、原告の昭和四六年分の金融業に係る事業所得金額は四〇五六万七五六三円となる。
六 昭和四七年分の事業所得
1 実額収入額
(一) 争いのない受取利息の額
別表二の<2>のうち、住発を除くその余の貸付先からの昭和四七年分の収入金額としての受取利息の額(合計二三七万七六七五円)は、当事者間に争いがない。
(二) 住発に係る受取利息の額
(1) 乙第二九号証によれば、住発の昭和四七年の総勘定元帳の支払利息勘定部分において、住発が原告に対して支払つた旨記載されている支払利息についての支払の年月日、金額及び摘要は別表二の<3>の「住発の総勘定元帳における支払利息の記帳内容」の欄に記載のとおりであることが認められ、これによると、昭和四七年において、原告は住発から、右のとおり、受取利息を受領しており、また、右のすべてが同年に発生したものであるということができ、その全額(八三六万七九五〇円)は、同年分の収入になるものである。
(2) 前記五の1の(二)の(3)で述べたところからすれば、昭和四六年中に住発が支払つた利息のうち昭和四七年分の収入に計上されるべき前受利息(昭和四六年における未経過利息)の額は、別表一の<3>の番号二八九及び二九一の全部、二六一ないし二六六、二六九ないし二八六、二八八、二九〇の各「金額」の欄に記載の金額からそれぞれ括弧内の金額を差し引いた金額の合計二三九万四四九六円である。
(3) 以上によれば、昭和四七年分の収入金額としての住発に係る受取利息の額は一〇七六万二四四六円となる。
(三) 右(一)及び(二)によると、昭和四七年分の実額収入額は一三一四万〇一二一円となる。
2 推計収入額
(一) 昭和四七年中に本件預金口座へ入金された金額及びその入金日が別表二の<6>の「入金額」及び「入金年月日」の各欄に記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。
(二) 別表二の<6>の「原告の主張」の欄の「認否」の欄に「○」印が付いている入金について
右入金は、被告主張の貸付先から入金された実額把握分入金(貸付元本返済及び受取利息の入金)であることは、当事者間に争いがない。
(三) 別表二の<6>の「原告の主張」の欄の「認否」の欄に「<×>」印が付いている入金について
(1) 協和Kの番号四九のうちの七万一〇〇〇円については、甲第一七号証の一によれば、右入金は吉富に係る実額把握分入金であることが認められる。
(2) 協和Tの番号八のうちの三五万五三〇〇円及び七三万九八〇〇円については、乙第三〇号証及び弁論の全趣旨によれば、右入金は住発に係る実額把握分入金であることが認められる。
(3) 協和Tの番号一六については、その入金された日が昭和四七年四月七日であるところ、乙第三〇号証によれば、住発が原告に対し同月五日に四七万四五〇〇円、同月七日に一九万四〇〇〇円、同月一〇〇万円を返済していることが認められ、これと右入金の金額が一致し、入金日が近接していることからすると、右入金は住発に係る実額把握分入金といつてよい。
(4) 協和Tの番号二二については、乙第八、第四〇号証によれば、右入金は訂正処理による入金であることが認められ、これによれば、右入金は貸付外入金であると認められる。
(四) 別表二の<6>の「原告の主張」の欄の「認否」の欄に「×」印が付いている入金について
(1) 原告が吉富からの入金であると主張するもの(協和Kの番号三、七五、成和の番号一九、二九、六九のうちの一五万円)については、乙第七、第九号証、第一四号証の二、第一九号証、原告本人尋問(第二回)の結果によれば、協和Kの番号と三、七五、成和六九のうちの一五万円は宝生が支払人、成和の番号一九、二九は奥富建設が支払人である他店券による入金であり、右入金はいずれも原告の貸付先である吉富からの入金であることが認められるが、右入金が貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(2) 原告が笈川からの入金であると主張する協和Kの番号六一については、乙第七、第九号証、原告本人尋問(第二回)の結果によれば、大岡計器が支払人である笈川からの入金であることが認められるが、右入金が貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(3) 原告が越川からの入金であると主張するもの(成和の番号五、一二ないし一四、一七、二一、二七、三三、三六、四二、四六のうちの三万円、四八、五三、五四、五八のうちの一万一四〇〇円、五九万、六二、七二、七三、八〇、八一、八四、八五)については、乙第九号証、第一四号証の二、原告本人尋問(第二回)の結果によれば、番号一七は池沢が支配人、番号五三は萩原が支払人、その余は越川が支払人である他店券による入金であり、右入金はいずれも原告の貸付先である越川からの入金であることが認められるが、右入金が貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(4) 原告が神戸からの入金であると主張するもの(協和Kの番号六五、七〇、七八のうちの八〇万円、八八、協和Tの番号一五のうちの五〇万円、成和の番号の五二、六八)については、乙第七、第九号証、第一四号証の二、第一九号証、原告本人尋問(第二回)の結果によれば、協和Kの番号六五は、九万九八〇〇円は越川が支配人、六万三九九〇円は永和が支払人である他店券による入金であること、協和Kの番号八八はエスタイトが支払人である他店券による入金であること、その余はいずれも永和が支払人である他店券による入金であること、越川が支払人であるものは原告の貸付先である越川からの入金であり、永和又はエスタイトが支払人であるものは神戸からの入金であることが認められる。しかし、右の越川からの入金が貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。また、右の神戸からの入金については、前記五の2の(四)の(6)で述べたのと同様の理由により、いずれも原告の神戸に対する貸付けに係る入金であるということはできるが、実額把握分入金であるとはいえない。
(5) 原告が自ら入金したと主張するもの(協和Kの番号一、四、九、四九のうちの三万円、六〇、六二、七三、八〇、八九、共和Tの番号三五、三七、三九ないし四一、平相浅草橋の番号二〇、二三)については、乙第七、第八、第三四号証、第三八号証の一、第四〇号証によれば、いずれも現金で入金されたものであることが認められるが、右入金が貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(6) 原告が住発からの入金であると主張するもの(協和Kの番号三一、三五、四三、四七、九八、一〇一、成和の番号二八、五七、六〇、六七、平相上野の番号一、三、一七、二二、平相浅草橋の番号一三、住友Aの番号一、三)のうち、協和Kの番号一〇一を除くものについては、乙第七、第九号証、第一四号証の二、第三三、第三四、第三六号証、第三七及び第三八号証の各一、第四〇及び弁論の全趣旨によれば、協和Kの番号三一、九八は原告が支払人であると主張する者から現金で入金されたものであること、協和Kの番号三五、四三、四七、平相上野の番号一、三、一七、二二、平相浅草橋の番号一三、住友Aの番号一、三はいずれも他店券による入金であること、成和の番号二八は、三三万八五〇〇円は丸菱が支払人、一二万〇四六〇円は松喜産業株式会社が支払人である他店券による入金であること、成和の番号五七は川村鉄工が支払人である他店券による入金であること、成和の番号六〇は、二万一七三一円は越川が支払人、四六万三〇七三円は川村鉄工が支払人である他店券による入金であること、成和の番号六七は、六六万六九〇〇円は金坂商店が支払人、五〇万円は木村商店が支払人である他店券による入金であることが認められる。しかし、右入金が住発からの入金であると認めるに足りる証拠はなく、また、貸付外入金はその他の実額把握分入金に関するものと認めるに足りる証拠もない。
協和Kの番号一〇一については、乙第七号証、第一四号証の二によれば、右入金は中国ホーマーが支払人である他店券による入金であることが認められる。ところで、別表一の<6>の協和Kの番号一一一、別表二の<6>の協和Kの番号一八、二七、三八、四五、五一のいずれの入金も支払人が中国ホーマーである他店券による入金であり、かつ、それが住発に係る実額把握分入金であることについて当事者間に争いがないことからすると、右協和Kの番号一〇一の入金も、特段の反証がないから、住発に係る実額把握分入金であるといつてよい。
(7) 原告が誤入金であると主張する協和Tの番号三四については、乙第八号証及び弁論の全趣旨によれば、現金で入金されたものであることが認められるが、右入金が貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(五) 別表二の<6>の「原告の主張」の欄の「認否」の欄が無印の入金について
(1) 協和Kの番号六のうちの二万四〇〇〇円については、乙第七、第二八号証によれば、住発から支払われた利息の入金(別表二の<3>の番号五の入金)であると認められるから、右入金は住発に係る実額把握分入金である。
(2) 協和Kの番号一六のうちの三万五〇〇〇円については、乙第七、第一九号証によれば、右入金は同番号のその余の入金(四六万四〇〇〇円)と一括して他店券により入金されていることが認められ、これと右四六万四〇〇〇円の入金につき住発に係る実額把握分入金であることが当事者間に争いがないことからすると、右三万五〇〇〇円の入金も、特段の反証がないから、住発に係る実額把握分入金であるといつてよい。
(3) 協和Kの番号一七については、乙第七号証、第一四号証の二、第三〇号証によれば、中国ホーマーが支払人である他店券による入金であること、住発は昭和四七年二月二八日に二七六万を原告に返済した経理処理をしていることが認められる。そして、協和Kの番号一七と同日に入金された協和Kの番号一八の入金を合計すると住発の右返済金額と同額になること、及び、別表一の<6>の協和Kの番号一一一、別表二の<6>の協和Kの番号一八、二七、三八、四五、五一のいずれの入金も中国ホーマーが支払人である他店券による入金であり、かつ、それが住発に係る実額把握分入金であることについて当事者間に争いがないことからすると、協和Kの番号一七の入金も、特段の反証がないから、住発に係る実額把握分入金であるといつてよい。
(4) 協和Tの番号一のうちの二二万円については、乙第八、第二〇号証によれば、右入金は住発に係る実額把握分入金であることが認められる。
(5) 右(1)ないし(4)以外の無印の入金については、いずれも貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(六) 以上によれば、推計の基となる金額に算入されない実額把握分入金及び貸付外入金並びに推計の基となる金額に算入される右以外の入金(内訳未把握分入金)は、別表二の<5>のとおり(ただし、括弧書きが付されたものについては括弧内の金額)であり、推計の基となる金額は八八七五万三〇二七円となる。
(七) 受取利息割合
甲第一三号証の二、三、第一五号証の三、四、第一七号証の一、二、第一八、第二三、第二五、第二六号証によれば、原告が昭和四七年中に受け取つた住発分を除く実額収入額算定に係る貸付(被告の主張2の(三)の<2>の貸付け)についての受取利息の額及び貸付元本返済の額の内訳は別表二の<4>の「受取利息」の欄及び「貸付元本返済額」の欄に記載のとおりであることが認められ、右により受取利息割合を算定すると一七・九九パーセントとなる。
(八) まとめ
右(六)の推計の基となる金額に右(七)の受取利息割合を乗じて推計収入額を算出すると一五九六万六六六九円となる。
3 必要経費
(一) 申告必要経費額が一六七万三六七九円であること、昭和四七年分の経費に計上される建物減価償却費の額が六万二三七〇円であることは、当事者間に争いがない。
(二) 原告は、昭和四七年分についても、昭和四六年分と同様の根拠に基づき未申告必要経費額の存在を主張するが、右主張は、前記五の3の(二)において昭和四六年分につき述べたと同じ理由で採用できない。
(三) そうすると、原告は、昭和四七年分の必要経費につき原告が自ら確定申告書に記載した申告必要経費額及び建物減価償却費の額を超える額を支出したことにつき疑いを抱かしめるに足りる事情すらも主張しているものとはいえず、また本件全証拠によりも右事情を認められないから、同年分の必要経費は、申告必要経費額、及び建物減価償却費の額の合計一七三万六〇四九円を超えないものというほかない。
4 小括
以上1ないし3によると、原告の昭和和四七年分の金融業に係る事業所得金額は二七三万〇七四一円となる。
七 昭和四七年分の事業所得
1 実額収入額
(一) 争いのない受取利息の額
別表三の<2>のうち、住発を除くその余の貸付先からの昭和四八年分の収入金額としての受取利息の額(合計二六四万三三六九円)は、当事者間に争いがない。
(二) 住発に係る受取利息額
(1) 乙第三一号証によれば、住発の昭和四八年の総勘定元帳の支払利息勘定部分において、住発が原告に対して支払つた旨記載されている支払利息についての支払の年月日、金額及び摘要は別表三の<3>の「住発の総勘定元帳における支払利息の記帳内容」の欄の番号一及び三のとおりであることが認められ、これによると、昭和四八年において原告は住発から、右のとおり受取利息を受領しており、また、右のいずれももが同年に発生したものであるということができる。
(2) 乙第三一、第三九号証、証人志村正の証言によれば、別表三の<3>の番号二については、住発が総勘定元帳の支払利息勘定部分に記帳する際、原告に対する支払利息であるのにこれを誤つて西村に対する支払利息である旨記帳したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右によれば、同表の番号二の利息は、住発に係る受取利息であると解され、このうち、摘要の内容から、昭和四八年分の収入に計上できない利息、すなわち未経過利息(同年内の期間に対応せず、翌昭和四九年内の期間に対応する利息)を控除した一四万八四三七円(昭和四八年一二月一三日から同月三一日までの期間に対応する利息。円未満切捨て)が、同年に発生したものであるということができる。
(3) 以上によれば、昭和四八年分の収入金額としての住発に係る受取利息の額は、右(1)及び(2)の合計である六〇万八四三七円となる。
(三) 右(一)及び(二)によると、昭和四八年分の実額収入額は三二五万一八〇六円となる。
2 推計収入額
(一) 昭和四八年中に本件預金口座へ入金された金額及びその入金日が別表三の<6>の「入金額」及び「入金年月日」の各欄に記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。
(二) 別表三の<6>の「原告の主張」の欄の「認否」の欄に「○」印が付いている入金について
右入金は、被告主張の貸付先から入金された実額把握分入金(貸付元本返済及び受取利息の入金)であることは、当事者間に争いがない。
(三) 別表三の<6>の「原告の主張」の欄の「認否」の欄に「<×>」印が付いている入金について
(1) 協和Tの番号一については、その入金された日が昭和四八年一月三〇日であるところ、乙第八号証によれば、原告振込みによる入金であることが認められ、甲第一七号証の二によれば、原告は、吉富に係る貸付けで受取利息の額とそれに対応する貸付元本返済の額がすべて判明しているものにつき、右入金日と同日に貸付元本返済として二五二万円及びこの利息として一四万円の合計二六六万円の支払いを受けていることが認められる。右によれば、右入金日と右の支払いを受けた日が同日であり、入金額と受領額が近似するものであるから、右入金は、吉富に係る実額把握分入金であるといつてよい。
(2) 協和Tの番号八については、その入金された日が昭和四八年一〇月二七日であるところ、乙第八後号証によれば、原告振込みによる入金であることが認められ、甲第三二号証によれば、原告は、酒井に係る貸付けで受取利息の額とそれに対応する貸付元本返済の額がすべて判明しているものにつき、右入金日と同日に右入金と同額の貸付元本返済を受けていることが認められる。右によれば、右入金は酒井に係る実額把握分入金であると認められる。
(四) 別表三の<6>の「原告の主張」の欄の「認否」の欄に「×」印が付いている入金について
(1) 原告が笈川からの入金であると主張するもの(協和Kの番号二四のうちの一七万円、二五、二八、五九のうちの二三万一六〇〇円、成和の番号八六、九四、一二一のうちの一〇万円、東京相互の番号二二)については、乙第七、第八、第一〇号証、第一四、第一五及び第一七号証の各二、第四〇号証、原告本人尋問(第二回)の結果によれば、いずれも笈川Sが支払人である他店券による入金であり、原告の貸付先である笈川からの入金であることが認められるが、右入金が貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(2) 原告が島田からの入金であると主張する成和の番号五〇については、乙第一三号証、第一四号証の二、原告本人尋問(第二回)の結果によれば、島田Yがし来任である他店券による入金であり、原告の貸付先である島田からの入金であることが認められるが、右入金が貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(3) 原告が越川からの入金であると主張するも(成和の番号三のうちの三一万二五〇〇円、五のうちの三三万八〇〇〇円、七のうちの三三万八〇〇〇円、一六、二一、二二、二四、二七のうちのの五〇万円、二九、三四、三五のうちの二〇万一八〇〇円及び三〇万円、三六のうちの二〇万円、三八、四三、四六、五二、六五、七七、八一のうちの三四万八五〇〇円、八二、八四のうちの四三万八五六〇円、八八、八九、九七、一〇〇のうちの一〇万円及び四三万一八〇〇円、一〇一、一〇三、一〇四、一〇八、一〇九、一一三、一一四、一二一、一三〇、一三一、一三九)については、乙第九、第一三号証、第一四及び第一六号証の各二、第二一号証、原告本人尋問(第二回)の結果によれば、番号三五のうちの二〇万一八〇〇円、四六、九七、一一三の入金は萩原が支払人、番号三八、八二、一〇八は池沢が支払人、その余は越川が支払人である他店券による入金であり(番号五については三九万四二一六円、二七については五五万円が入金されている。)、いずれも原告の貸付先である越川からの入金であることが認めらるが、右入金が貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(4) 原告が山口からの入金であると主張するもの(成和の番号三七、八一のうちの一万五〇〇〇円、八七、九五のうちの一万五〇〇〇円)については、乙第一三号証、第一四号証の二、原告本人尋問(第二回)の結果によれば、いずれも山口が支払人である他店券による入金であり、原告の貸付先である山口からの入金であることが認められるが、右入金が貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(5) 原告が栗林食品からの入金であると主張するもの(成和の番号五三のうちのの一三万円、七六のうちの五〇万円、七八のうちの一万九〇〇〇円、九〇のうちの一一万三七五〇円及び一万五〇〇〇円、九二のうちの四万五七五〇円、一二二、一四〇)については、乙第一三号証、第一四号証の二、原告本人尋問(第二回)の結果によれば、いずれも栗林食品が支払人である他店券による入金であり、原告の貸付先である栗林食品からの入金であることが認められるが、右入金が貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(6) 原告が山本からの入金であると主張するもの(成和の番号三一のうちの二万七六〇〇円、三五のうちの一〇万、六六、六七、七一、七八のうちの一五万円、九一、九二のうちの四万三七五〇円、九五のうちの四万八二五〇円、一〇七、一一〇、一一二のうちの二〇万円、一二八のうちの一〇万円、一三四)については、乙第一三号証、第一四号証の二、第二一号証、原告本人尋問(第二回)の結果によれば、いずれも山本が支払人である他店券による入金であり(ただし、成和の番号九二についての入金額は四万三一二五円である。)、原告の貸付先である山本からの入金であることが認められるが、右入金が貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(7) 原告が今村からの入金であると主張するもの(成和の番号三一のうちの三万八四〇〇円、三六のうちの一万六六四〇円、六九、九三、一〇〇のうちの二万七五〇〇円、一一六、一二八のうちの三万円、一三六)については、乙第一三号証、第一四号証の二、原告本人尋問(第二回)の結果によれば、いずれも今村が支払人である他店券による入金であり、原告の貸付先である今村からの入金であることが認められるが、右入金が貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(8) 原告が山田彰からの保険料入金であると主張する成和の番号一三七については、乙第一三号証、第一四号証の二によれば、山田彰が支払人である他店券による入金であることが認められるが、右入金が保険料であると認めるに足りる証拠はなく、また、その他の貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(9) 原告が小池からの入金であると主張する協和Kの番号三九のうちの九万五〇〇〇円については、乙第七号証、第一五号証及び弁論の全趣旨によれば、宮本が支払人である他店券による入金であることが認められるが、右入金が小池からの入金であると認めるに足り証拠はなく、また、右入金が貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠もない。
(10) 原告が神戸からの入金であると主張するもの(協和Kの番号二のうちの八万円及び六三万五七五三円、一七のうちの一三万二九二三円、成和の番号葉一一のうちの一〇〇万円)については、乙第八、第九号証、第一四及び第一五号証の各二によれば、協和Kの番号一七のうちの一三万二九二三円は、昭和四八年一月九に永和が支払人である他店券による振込があつたが、同他店券が不渡りになり、無通帳扱いで買戻し(NB処理)がされ、この入金に代わるものとして同年二月五日に株式会社サガミダイヤル鉱業が支払人である同額の小切手により入金となつていること、成和の番号一一のうちの一〇〇万円は、三愛電子が支払人である他店券による入金であること、この余はいずれも永和が支払人である他店券による入金であることが認められる。
右に述べたところ及び前記五の2の(四)の(6)によれば、右入金は、成和の番号一一のうちの一〇〇万円を除き、いずれも神戸からの入金であると認められるが、神戸からの入金については前記五の2の(四)の(6)で述べたのと同様の理由により、いずれも原告の神戸に対する貸付けに係る入金であるということはできるが、実額把握分入金とはいえない。
成和の番号一一のうちの一〇〇万円については、右に述べたところだけではこれが神戸からの入金であると認めるに足りず、また、右入金が貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(11) 原告が自ら現金を入金したと主張するもの(協和Kの番号二二、二九、五〇、六四、六五、七〇、八九、協和Tの番号三、五ないし七、九、一二、一三、成和の番号八のうちの一〇八万八〇〇〇円、三〇、四四、一一五、一四一、一四二、富士の番号一四、一九、平相浅草橋の番号三、六ないし一〇、一四、一六、一七、住友Aの番号三)のうち成和の番号一一五、一四一、一四二、富士の番号一四、一九を除くものについては、乙第七ないし第九号証、第一三、第二一、第三三、第三六号証、第三八号証の一、第四〇号証によれば、いずれも現金で入金されたものであることが認められるが、右入金が貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
成和の番号一一五、一四一、一四二については、乙第一三号証、第一六号証の二、第二六号証によれば、番号一一五は最上産業株式会社が支払人、番号一四一は篠塚凱史が支払人である他店券による入金であること、番号一四二は他店券による入金であることが認められ、原告が自ら現金を入金したものとは認められず、また、貸付外入金又は右入金が実額把握分入金であると認めるに足りる証拠もない。
富士の番号一四、一九については、乙第一一号証によれば、番号一四の入金に関する記載事項は「シンジユクニシグチ」であり、番号一九の入金については何らの記載もないことが認められるが、右の記載事項だけでは右入金が現金による入金であるのか他店券による入金であるのか判明せず、また、右入金が貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠もない。
(12) 原告が住発からの入金であると主張するもの(平相上野の番号二、平相浅草橋の番号一、二、一一、住友Aの番号四)については、乙第三三、第三四、第三六号証、第三八号証の一、第四〇号証によれば、平相浅草橋の番号二及び住友Aの番号四を除き、いずれも他店券による入金であること、平相浅草橋の番号二は現金で入金されたものであること、住友Aの番号四は振込み(振込方法は不明)による入金であることが認められるが、これだけからは、いずれも住発からの入金であると認めることはできず、また、右入金が貸付外入金又は実額把握入金であると認めるに足りる証拠もない。
(13) 原告が誤入金であると主張する東京相互の番号一八については、乙第一〇、第四〇号証によれば、他店券による入金であることが認められるが、右入金が貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(五) 別表三の<3>の「原告の主張」の欄の「認否」の欄が無印の入金について
(1) 協和Kの番号五については、甲第二五号証及び弁論の全趣旨史によれば、右入金は渡辺に係る実額把握分入金であると認められる。
(2) 右(1)以外の無印の入金については、いずれも貸付外入金又は実額把握分入金であると認めるに足りる証拠はない。
(六) 以上によれば、推計の基となる金額に算入されない実額把握分入金及び貸付外入金並びに推計の基となる金額に算入される右以外の入金(内訳未把握分入金)は、別表三の<5>のとおりであり、推計の基となる金額は、一億一二五四万四八二二円となる。
(七) 受取利息割合
甲第一三号証の三、第一五号証の四、第一七号証の二、第一八号証、第二六ないし第三二号証によれば、原告が昭和四八年中に受け取つた住発分を除く実額収入額算定に係る貸付け(被告主張2の(三)の<2>の貸付け)についての受取利息の額及び貸付元本返済の額の内訳は別表三の<4>の「受取利息」の欄及び「基本返済額」の欄に記載のとおりであることが認められ、右により受取利息割合を算定すると一八・八〇パーセントとなる。
(八) まとめ
右(六)の推計の基となる金額に右(七)の受取利息割合を乗じて推計収入額を算出すると、二一一五万八四二六円となる。
3 必要経費
(一) 申告必要経費額が二四五万二一一七円であることは、当事者間に争いがない。
(二) 原告は、昭和四八年分についても、昭和四六年分と同様の根拠に基づき未申告必要経費額の存在を主張するが、右主張は、前記五の3の(二)において昭和四六年分につき述べたと同じ理由で採用できない。
(三) そうすると、原告は、昭和四八年分の必要経費につき、原告が自ら確定申告書に記載した申告必要経費額を超える額を支出したことにつき疑いを抱かしめるに足りる事情すらも主張しているものとはいえず、また、本件全証拠によるも右事情を認められないから、同年分の必要経費は、申告必要経費額二四五万二一一七円を超えないものというほかない。
4 小括
以上1ないし3によると、原告の昭和四八年分の金融業に係る事業所得金額は二一九五万八一一五円となる。
八 本件各処分の適法性
右五ないし七のとおり、原告の本件係争年分の金融業に係る事業所得金額は、昭和四六年分が四〇五六万七五六三円、昭和四七年分が二七三七万〇七四一円、昭和四八年分が二一九五万八一一五円であるところ、原告には本件係争年分を通じて金融業に係る事業所得以外の各種所得がないことは当事者間に争いがないので、右事業所得金額がそれぞれの年分の総所得金額となり、いずれも本件各更正における総所得金額を上回つている。
ところで、弁論の全趣旨によれば、原告は、本訴において、専ら本件係争年分の所得税の課税標準額(総所得金額)が過大であることのみを争つており、本件係争年分の所得税の課税標準額が本件各更正に係る課税標準額を下回るものではない限り、本件各更正に係る納付すべき税額、本件各賦課決定に係る過少申告加算税の額を争つてはいないものと認められる。
そうすると、本件各処分はいずれも適法というべきである。
九 結論
よつて、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 青野洋士 裁判官加藤就一は転補のため署名押印できない。裁判長裁判官 鈴木康之)
別紙一 「証書の成立関係」
一 成立に争いのないもの
〔甲号証〕
第一二、第一三号証の各一ないし三、第一四号証、第一五号証の一ないし四、第一六号証、第一七号証の一、二、第一八号証、第一九号証の一、二、第二〇ないし第三二号証
〔乙号証〕
第七、第八号証、第一四ないし第一八号証の各一、第一九ないし第二四号証、第二六号証、第四〇号証
二 原本の存在及び成立に争いのないもの
〔乙号証〕
第一、第三号証の各一、二、第五、第九、第一一、第三六号証
三 原告本人尋問(第一回)の結果により真正に成立したものと認められるもの
〔甲号証〕
第一号証の一、二、第二号証、第四三、第四四号証の各一、二
四 証人志村正の証言により真正に成立したものと認められるもの
〔乙号証〕
第二七ないし第三二号証、第三九号証
五 証人須藤勉の証言により真正に成立したものと認められるもの
〔乙号証〕
第一〇、第一三号証、第一四ないし第一八号証の各二
六 証人須藤勉の証言により原本の存在及び成立の真正が認められるもの
〔乙号証〕
第三三ないし第三五号証、第三七、第三八号証の各一
別紙二 「略語一覧表」
<省略>
別表一の<1> 昭和四六年分課税処分経緯表
<省略>
別表一の<2> 昭和四六年分実額収入額
<省略>
別表一の<3> 昭和46年分の住発に係る受取利息
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
別表一の<4> 受取利息割合算出表(昭和46年分)
<省略>
(注)1 <1>欄の金額は、原告が昭和46年中に上記貸付先から実際に受け取った利息の合計額である。
2 上記貸付先に係る昭和46年分の収入金額としての受取利息の金額は、上記<1>の金額に昭和45年中に受け取った金額のうち、昭和46年分の収入金額に計上したもの142,660円を加算し、昭和46年中に受け取った金額のうち、昭和47年分の収入金額に計上したもの164,489円を減算したものである。
別表一の<5> 推計に係る入金(昭和46年分)
<省略>
別表一の<6> 協和K
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
協和T
<省略>
<省略>
成和
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
東京相互
<省略>
<省略>
富士
<省略>
平相上野
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
平相浅草橋
<省略>
<省略>
<省略>
三菱
<省略>
住友A
<省略>
住友B
<省略>
別表二の<1> 昭和四七年分課税処分経緯表
<省略>
別表二の<2> 昭和四七年分実額収入額
<省略>
別表二の<3> 昭和四七年分の住発に係る受取利息
<省略>
<省略>
別表二の<4> 受取利息割合算出表(昭和47年分)
<省略>
(注)1 <1>欄の金額は、原告が昭和47年中に上記貸付先から実際に受取った利息の合計額である。
2 上記貸付先に係る昭和47年分の収入額としての受取利息の金額は、上記<1>の金額に昭和46年中に受取った金額のうち昭和47年分の収入金額に計上したもの164,489円を加算し、昭和47年中に受取った金額のうち昭和48年分の収入金額に計上したもの5,260円を減算したものである。
別表二の<5> 推計に係る入金(昭和47年分)
<省略>
別表二の<6> 協和K
<省略>
<省略>
<省略>
協和T
<省略>
<省略>
成和
<省略>
<省略>
<省略>
東京相互
<省略>
<省略>
富士
<省略>
平相上野
<省略>
<省略>
平相浅草橋
<省略>
三菱
<省略>
住友A
<省略>
別表三の<1> 昭和四八年分課税処分経緯表
<省略>
別表三の<2> 昭和四八年分実額収入額
<省略>
別表三の<3> 昭和四八年分の住発に係る受取利息
<省略>
別表三の<4> 受取利息割合算出表(昭和48年分)
<省略>
(注)1 <1>欄の金額は、原告が昭和48年中に上記貸付先から実際に受取った利息の合計額である。
2 上記貸付先に係る昭和48年分の収入金額としての受取利息の金額は、上記<1>の金額に、昭和47年中に受取った金額のうち昭和48年分の収入金額に計上したもの5,260円を加算し、昭和48年中に受取った金額のうち昭和49年分の収入金額に計上したもの371,211円を減算したものである。
別表三の<5> 推計に係る入金(昭和48年分)
<省略>
別表三の<6> 協和K
<省略>
<省略>
<省略>
協和T
<省略>
成和
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
東京相互
<省略>
<省略>
富士
<省略>
平相上野
<省略>
<省略>
平相浅草橋
<省略>
三菱
<省略>
住友A
<省略>